TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。8月19日(金)の放送では、「三井記念美術館」で茶道具が持つ“景色”を愛でました。

◆愛でればわかる…茶碗に宿る“景色”

今回の舞台は、JR東京駅から徒歩数分、昭和初期の日本を代表する洋風建築として知られ、国の重要文化財にも指定されている三井本館7階にある三井記念美術館。

ここは2005年、中野区にあった三井文庫別館が移転し、開館。江戸時代から三井家が集めてきた日本と東洋の美術品を約4,000点所蔵しています。

そんな三井記念美術館で今夏開催されていたのは、展覧会「リニューアルオープンⅡ 茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる」。かつて茶人たちは陶磁器に偶然できた表情を自然の景色と捉え、「銘」と呼ばれる独特な名前をつけるなどして、その美しさを楽しんできました。茶人たちが見ていたその景色に注目したこの展覧会。同館の学芸部長・清水実さんの案内のもと、片桐はその景色に迫ります。

まずは茶道具の基本となる茶碗から。最初の作品は「粉引茶碗 銘残雪」(16世紀)。粉引茶碗とは朝鮮半島から渡来した高麗茶碗の一種で、柔らかな白の肌合いが特徴です。

片桐は「500年前の作品が割れずに、すごいな〜」と早くも驚きの声を上げます。

今回のテーマである景色について考えるにあたって、この作品は、「わかりやすい」と清水さん。本作は銘に「残雪」とあり、この茶碗の持つ独特な色合いなどさまざまな所以があるそうですが、名付けたのは日本の茶人。茶碗が持つ景色をイメージして銘をつけており、片桐は「ストーリーを新たに加えるという面白さですね」と解釈。「何かのストーリーを付け加える、見出すことが面白さですよね」と感心しきり。清水さん曰く、そうしたわびさびの美こそ日本らしさ、日本の茶の湯の世界だとか。

続いても高麗茶碗のひとつで、千利休が使っていたという言い伝えがある「古三島茶碗 二徳三島」(16世紀)。

片桐は「千利休がこれを持っていたんですか!実際に使っていた!?」とビックリ。当時の茶会記に“コユミ茶碗”と記されており、それがこの茶碗に該当すると言われています。

コユミ茶碗というのは、“コユミ”=暦と考えられ、なぜかといえば、茶碗の内側に入っている縦の筋が当時、三島神社で発行されていた三島暦に似ているから。それゆえにこのタイプの茶碗を「三島茶碗」と言い、中でも古いものが「古三島茶碗」とされています。

元来、古三島茶碗はそこまで高級品ではなく、数多く残っているものの、本作は千利休が持っていたということ。そして、こうも綺麗に残っているものは少ないとか。ヒビの入り具合など長年の間にできた変化もまたひとつの景色として愛でるポイントで、片桐が気になったのはそのお値段。清水さんによると、本作は重要文化財などではないものの市場に出たら数億円。

片桐は「億単位……」と恐れ慄き、「千利休が持っていたっていうし、やはりストーリーですね。いや〜、面白いですね〜!」と感服。

さらに歩を進め、次の部屋には茶碗がひとつだけ。それは「志野茶碗 銘卯花墻」(16〜17世紀)という日本で作られた茶碗で、国宝に指定されている逸品。日本で焼かれた茶碗で国宝に指定されているのはふたつだけで、これはそのうちのひとつです。

この茶碗がなぜ国宝なのかといえば、桃山時代を代表する一点だから。安土桃山時代に美濃(岐阜県)で焼かれた白釉を使った焼物を“志野焼”と言い、これが出回った頃に日本でも絵の具で絵を描いた陶磁器が登場。本作は垣根のような模様、縦と横のラインが入っています。

そして、箱の蓋裏には色紙が貼ってあり、そこには江戸初期の大名茶人で茶道石州流の祖・片桐石州が詠んだ、卯の花(ウツギの白い花)がいっぱい咲いている垣根のトンネルみたいな細い道を歩いていると雪を踏んで歩いているようだというような意味の和歌があり、“卯花墻”なる銘がつけられたことがうかがえます。ちなみに、お茶の世界では誰が銘をつけたかということもとても重要だそうです。

◆抽象画のような水指、歪な水指にそれぞれの景色が

茶碗の次は“水指”に注目。水指とは茶の湯の席で茶釜のお湯が少なくなったときに注ぐお水を入れる器のこと。

まずは桃山時代の終盤に焼かれた「備前緋襷水指」(16〜17世紀)から鑑賞。

これは大きな器を焼く際、その中にくっつかないように藁を巻いて入れ、一緒に焼いていた作品。その藁が赤い線になり、それが赤い襷に見えることから“緋襷”。はたまた、炎に見立て“火襷”と表現されることもあるこの作品は、そんな緋襷を景色として愛でます。

その様はまるで抽象画のようでなんとも趣があり、片桐は「お茶碗だけでなく、こうした水指など、いろいろなものも全部(景色として)見るんですね」と茶人たちに思いを馳せます。

一方、「これは歪んでいますね〜」と見入っていたのは「伊賀耳付水指 銘閑居」(17世紀)。

これはその名の通り、伊賀で焼かれた水指で、千利休の亡き後、茶の湯界をリードした利休の弟子で大名茶人、織部こと古田織部が好んだ一品。彼は奇抜で斬新な形や模様の器を好み、こうした歪んだものなどは“織部好み”と言われます。

なお、本作は千利休を祖とする千家流茶道の本家「表千家」に伝わるもので、表千家五代・随流斎が“閑居”という銘を器の底に記入。閑居というのは隠遁してわび住まいをする様子のことで、本作の形も見ようによっては隠居した人の形のよう。

片桐も「この形を人に見立てて閑居…なるほど。だんだん見えてきました。お年寄りがかわいく座っているみたいな。おじいちゃんというよりはおばあちゃんかな。そう思えるとかわいくなってきましたね」と思いを巡らせます。

景色の感じ方は人それぞれで、茶道具の世界はこうして偶然できた模様や歪んだ形に景色を見つけ出し、和歌を詠んだり、銘をつけたりすることでより味わいを増していました。

◆片桐も思わずホッ…かわいげのある香合に見た景色とは?

最後は現代のコレクターもつい集めたくなる、とてもかわいらしい茶道具、炭の臭いを消すための香を入れておく器“香合”にフォーカス。

まずは「志野重餅香合」(16〜17世紀)を前にし、片桐は「焼いたお餅感のある色ですね」とその名前もあってお餅を連想。

清水さんによると、これはお餅ではなく、香炉を見立てて作られたものと思われ、単純に香炉を模したといっては面白みがないので重ね餅・鏡餅のようなイメージが加えられた、ウィットに富んだ、遊び心のあるネーミングだとか。

さらに、片桐が「これは気になっていました。絵付けしてあって、かわいいですね〜」と評していたのは「織部砂金袋香合」(17世紀)。

通常、“茶巾”とすればいいところ、あえて“砂金袋”としたところが黄金の時代と言われる桃山時代らしく、さらに縁起の良さもあって「この名前にしたのだろう」と清水さんは推測。

香合の景色を愛でた片桐は「この部屋はホッとしますね〜」としみじみ。なぜなら茶碗などに比べ、香合は小さく、かわいらしいからで「どこか力が抜けていてかわいいという感じですね」と香合の印象を語ります。

今回、茶碗や水指、香合とさまざまな茶道具を堪能した片桐は「道具一つひとつ全てに熱量があるというか、お茶に興味がない人が来ても『これが国宝だ』、『これが重要文化財か』、『これを千利休が使っていたのか』といったことを知れて、その面白さプラス説明を読んで、『そうなんだ!』っていう楽しさというか、人間としてランクがひとつ上がる感じというか。そういった楽しさがありましたね」と感想を語ります。

そして、「茶の湯の名品を集め、その良さを優しく教えてくれる三井記念美術館、素晴らしい!」と絶賛。豊かな想像力と遊び心溢れる茶人たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「瀬戸肩衝茶入 銘二見」

三井記念美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったもののなかから学芸部長の清水さんがぜひ見て欲しい作品を紹介する「今日のアンコール」。清水さんが選んだのは「瀬戸肩衝茶入 銘二見」(17世紀)。

これは抹茶を入れる器で、清水さんによると、三井家の本家二代目が初期に収集したもので、晴れがましい茶会でこれはよく使われてきたという逸品。器の中央に“なだれ”と言われる銀色っぽい模様があり、こうして上から下までキレイに、かつこの色が出ること自体が珍しく、それもまた清水さんのお気に入りの理由だそうです。

最後はミュージアムショップへ。明るくキレイな店内に片桐はウキウキの様子で、まず手に取ったのはぐい呑み。

「この景色はなんですかね〜」と今回の展覧会同様、そこに景色を感じつつ、緋襷のおちょこ、そして伝説の怪獣小皿を見つけ「これはいいですね〜、伝説の怪獣、かわいいですね」と笑顔をのぞかせます。

さらにはお鈴の音色に酔いしれつつ、アウトドア用のお茶セット「旅持ち茶籠 玉手箱」を発見。こちらなんと17万500円。

そして最後は風呂敷アクアドロップ。「今は撥水になっているんですね」、「風呂敷はいろいろな使い方がありますからね〜」と楽しそうに話していました。

※開館状況は、三井記念美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週金曜 21:25〜21:54、毎週日曜 12:00〜12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/