TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。8月12日(金)の放送では、「郷さくら美術館」で日本画の色彩の魅力に迫りました。

◆唯一無二、100%天然色で彩られる日本画

今回の舞台は、東京都・目黒区にある郷さくら美術館。現代日本画の専門美術館として2012年に開館し、昭和以降に生まれた日本画家の作品を中心に、約800点を所蔵しています。

片桐は、そこで今夏開催されていた「COLORFUL ―イロドリ日本画展―」へ。

日本画では、主に鉱石を原料とする“岩絵具”が使用されますが、水彩絵具のように安定した色を出すことは困難。画家たちは日々試行錯誤しながら作品を描いており、今回の展覧会では、そんな奥深い日本画の“色”に注目。学芸員の依田恵さんの案内のもと、水彩画や油絵とは全く異なる日本画ならではの色彩の秘密に迫ります。

天然の鉱石を砕き、膠(にかわ)というゼラチン質の接着剤と混ぜて使う岩絵具。まずはその奥深さや難しさが集約された林潤一の「四季樹花図」(2001年)。作品を前に、片桐は「カラフル…彩りが素晴らしいですね」と目を見張ります。

これは1枚の屏風に向かって左から春夏秋冬、四季折々の花が描かれており、そこにある葉の色合いは同じ緑でも黄色や白みがかったものなどさまざま。岩絵具で有名な緑は“緑青(ろくしょう)”で、「マラカイト」という鉱石をすり潰して作られています。

岩絵具は、鉱石を砕く際の粒子の粗さや、溶くときに使われる膠の量で発色に違いが出るため、岩絵具を混ぜること自体、難しいと依田さんは解説。それを聞いた片桐は「これだけカラフルにするということは、岩絵具の特性をよく知らないと描けないということですよね」と林の技量に感服。

岩絵具は扱いがとても難しく、原料の鉱石の違いによって描き心地もかなり異なるため、それぞれの色を上手に使い分ける必要があり、片桐は「カラフルなものを作るのは、それだけで挑戦みたいなところがあるんですかね。見れば見るほど、細かく描かれていますよね!」と感心しきり。

同じく林が描いた「四季花卉図」(2000年)もまた、さまざまな色が用いられた極彩色な作品です。林は自宅の庭で多くの植物を育て、花の細部に至るまで観察。そうして移りゆく季節の花々を描いていました。

片桐は「この青は何を使っているのか。どんどん知りたくなりますね」と早くも日本画の色彩に惹かれている様子。「四季花卉図」で使われていたのは、おそらく“群青(ぐんじょう)”。これは「アズライト」からできており、マラカイトと同じ石ですが、不純物などの違いで色味が変わっていると依田さん。

また、アズライトやマラカイトは日本では昔から宝飾品としても好まれ、そうした宝石が絵になっているということに、依田さんは「すごくロマンがある」と話します。

◆印象派などの影響も…色彩を生み出すさまざまな技法

色彩豊かな日本画には、巧みな技が光る色表現も数多くあります。それがうかがえる作品のひとつが、下田義寛の「モン・サン・ミッシェル」(2000年)。

この作品は、背景及び全面に金箔・銀箔が使われ、それが夕焼けの輝きを強調しつつ、一方で水面は同じく金箔を用いながらも削り方を変えることで、また異なる質感に。

幻想的な空気を見事に表現しており、その巧みな技術に片桐は「見る角度によって色味が全然変わりますもんね。どうやっているんだろうな」と興味を示しつつ、「金箔の感じとか日本画っぽいのに、近くで見ると線が赤とかになっていて、すごくデジタルな印象を受ける」とも。

そもそも日本画を描くには岩絵具を作ることから始まり、どれだけの量を用意しておくかなど、事前に綿密な準備が必要不可欠で「自分の画風にあった段取りのようなものを習得するのが大変ですね。いや、すごいな…」と片桐。

続いて「ピンクがすごいですね!」と見入っていたのは、1986年生まれの若き作家・加藤千奈の「春風」(2019年)。

これは紙ではなく絹に描かれた「絹本(けんぽん)」で、日本画ではよく使われるもの。絹に描くと透明感が際立ち、表からだけでなく裏から描くことができるのも大きな魅力。本作も花びらの一部を裏から描くことでより透け感が強まり、奥行きにレイヤーを生み出すことが可能に。

ただ、絹に描くとなると色が沈んでしまい、描き心地も紙とは全然違います。さらには紙のように厚く色を盛れないというデメリットもあり、「むずっ! 大変」と唸る片桐。

次に鑑賞したのは、ベネチアの風景を描いた松村公嗣の「舟唄」(2007年)。

その水面の輝きは、さまざまな色の点描で描かれており、ちょっと印象派のような仕上がりに。

依田さんによると、光を点描で表現する手法は印象派からきており「この作品は昔の日本画と言うよりも(洋画の影響を受けた)現代の日本画ならでは」と解説します。

◆奥深い色彩とともに、流れる時間、哀愁までも内包

片桐が「空がむちゃくちゃ青いですね! そしてキラキラしている」と色合いに驚いていたのは、村居正之の「白い教会」(1994年)。

アズライトは鉱石なので粒が粗いものを使うと石自体に輝きがあり、この作品の空の色がキラキラとしているのもそのため。片桐が「日本画のキラキラこそ岩絵具の真骨頂というかね」と舌を巻いていたように、天然の岩絵具の美しさに魅せられて日本画を始めた人も多いとか。

村居はこの“青”にとてもこだわり、群青だけを使った作品もあります。群青は加熱することで変色することが可能。同じ群青でも無限の色幅があり、片桐は「普通に絵としても面白いですし、プラス、技術の話も面白いですね」と日本画の色彩にさらに興味津々。

青に続いては黄色の作品、乾露予の「バラ」(2013年)。黄色の同系色のグラデーションが見事な作品で、上のほうは青みがかっているのに対し、下のほうはオレンジがかった背景が作品にメリハリをつけています。

この作品は全て同系色で彩られているため、通常であれば背景とモチーフが混ざってしまいやすいものの、バラを白っぽく描くことで目立たせ、葉も薄く色づけられ立体感が。片桐は「そこはかとなく輝いていて、(描いているのも)バラだし、なんか説得力がありますね。日本画と植物のこうした細かい描き方が合っている感じがしますね」としみじみと語ります。

最後は、今春に収蔵されたばかりの吉田舟汪による最新作「雉子鳴く」(2022年)。

一目見て片桐は「いかにも日本画、我々のイメージする日本画」と評し「カラフルというテーマで、一見するとあんまりカラフルじゃないのかなと思うけど、狭いトーンでの色味の違いというかね」とその色合いに注目。同じような色合いのなかにも桜のほのかなピンク、空の薄い水色など淡い色合いが絶妙に混じり合い、全体的にバランスの良い作品に。

また、日本画は完成までに時間がかかり、多くの画家はその長い時の流れを感じながら描いているそう。この吉田の作品からもそうした時間が感じられ、奥深き日本画の色世界には流れる時間や哀愁までもが描かれていました。

片桐は「今回のテーマは『カラフル』ということで、追い求めるものもさることながら、日本画の技術などをもって時間の流れを表現しているという話も面白かったですね。自分の作風に適した技術を持ったプロフェッショナルの作品、色使いを見せていただいて、日本画に対するイメージが変わったかもしれない」と感想を語ります。

そして、「巧みな技術と色への探究心に溢れた日本画の世界、素晴らしい!」と称賛し、色を追い求めた作品と画家たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、青山亘幹の「夏Ⅱ夕」

郷さくら美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったもののなかから学芸員の依田さんがぜひ見てほしい作品を紹介する「今日のアンコール」。依田さんが選んだのは、青山亘幹の「夏Ⅱ夕」(1991年)。

写実的な生々しさとさらっとした陰影との「ギャップが面白い」ということでこの作品をセレクト。その背景もまた全て金箔で絹に描かれています。片桐は、「このコントラストはすごい。タッチとかを見ると日本画という感じで、新しいのか古いのかなんだかわからない面白さがありますね。それに、ちょっとファッション誌の一枚みたいな感じもしますね」と見惚れていました。

最後はミュージアムショップへ。「さすが現代日本画専門美術館ということで、グッズも独特」と楽しそうな片桐。今回鑑賞してきた作品のクリアファイルなどを物色しつつ、片桐が「セクシー!」と声を上げていたのは、レースで模様があしらわれた布マスク。

さらにはマスクストラップやチャームなども発見し、「マダムたち御用達な感じがしますね!」と楽しそうな片桐でした。

※開館状況は、郷さくら美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週金曜 21:25〜21:54、毎週日曜 12:00〜12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/