TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。6月17日(金)の放送では、「東京都美術館」で開催されていた展覧会「スコットランド国立美術館 THE GREATS」に伺いました。

◆スコットランド国立美術館の名画の数々を東京で堪能

今回の舞台は東京都・台東区、上野恩賜公園の中にある東京都美術館。1926(大正15)年、日本初の公立美術館として前身である東京府美術館が誕生し、以来90年以上に渡り世界と日本の名作に出会える美術館として広く社会にアートを伝え続けています。

片桐はそんな東京都美術館で開催されていた展覧会「スコットランド国立美術館 THE GREATS」へ。

“THE GREATS”というのは“巨匠たち”という意味で、今回は世界でも有数の西洋絵画コレクションを擁するスコットランド国立美術館自慢の巨匠たちの名作、さらには同館の特徴でもある英国の画家の作品を多数展示。学芸員の髙城靖之さんの案内のもと、片桐はルネサンスからバロック、ロココと西洋絵画史を彩る巨匠たちの作品を巡ります。

まずはルネサンスから。レオナルド・ダ・ヴィンチの師匠と言われるアンドレア・デル・ヴェロッキオの「幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)」(1470年頃)は、まさに当時を代表する作品のひとつで、そこに描かれているのは生まれたばかりのキリストにマリアが礼拝している様子。

画面全体が非常に明るく、聖母の頭を頂点とした三角形の非常に安定した構図からは静かさが感じられ、まさにルネサンスの様式になっています。

一方、「幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)」の約130年後、エル・グレコの「祝福するキリスト(「世界の救い主」)」(1600年頃)は一転して肌が青白く、全体的に縦長のプロポーションに。

それがエル・グレコの画風でもあるのですが、当時はルネサンス末期、バロックへと以降する前。ヴェロッキオの作品に比べ背景が黒くなっており、バロックになると暗い中に人物が浮かび上がるような表現が主流になっていくことから、まさにその過渡期であることが垣間見えます。

また、左目には涙が浮かんでいるように見えますが、そうした感情を揺さぶるような表現もルネサンスには見られないもの。バロックになるとこうした表現が増えてくることからも、ルネサンスからバロックへと移行するちょうど間の作品だと言えます。

◆ルネサンスからバロック、そしてロココへ

ルネサンス期の作品は安定した構図で静謐な時間を醸し出していましたが、時とともにそれに反するような動きのある劇的な表現が現れ、時代はバロックへと移り変わります。

今回の展覧会の目玉作品のひとつで日本初来日となる、17世紀のスペインを代表する画家ディエゴ・ベラスケスの「卵を料理する老婆」(1618年)。

作品を一目見た片桐は「この卵と器のリアリティがすごいですね。どこ見てもすごい!」とビックリ。描かれているもの全て、布も肌の質感も見事な質感描写ですが、このときベラスケスは18〜19歳の頃。それを聞いた片桐は「天才なんですね」と思わず感服。

この作品はスペイン語で言う“ボデゴン”、主に厨房や酒場などを舞台にした風俗画や静物画です。それまでは宗教画が主流でしたが、これは身の回りの風景を絵画・芸術にまで高めた象徴的な作品で、なおかつルネサンス期の全体に光を当てていたのとは異なり、人物にスポットライトを当てる光の使い方はバロックの特徴でもあります。

さらに、片桐は「(ルネサンス期とは)構図も全然違いますね。三角形の安定感のある構図ではない」と指摘。これは対角線上に斜めに人を配置することで動きを出しており、そうした動的な構図も17世紀のバロックならではの特徴のひとつです。

続いて、「物語がありそうな絵ですね」と片桐が興味を示していたのは、オランダの巨匠レンブラント・ファン・レインの「ベッドの中の女性」(1647年)。

この作品は、タイトル通りベッドの中の女性が描かれているものの、どういった場面を描いたものなのか定かではなく芸術界でも議論されているそうですが、一説によると、旧約聖書の「トビト記」の一場面で、サラという女性が自分の結婚相手トビアを心配そうに見つめている場面ではないかと言われているそう。

このサラは非常に不幸な女性で、過去に7回結婚するも結婚初夜に悪魔が新郎を惨殺。それを聞いた片桐は、「そんな聖書の話あるんですね。8人目の旦那がよくきましたね」と驚きを隠せない様子。実は新郎トビアは、大天使ラファエルの加護を受け、悪魔を追い払う方法を聞いていたそうで、この後トビアは悪魔を追い払い無事に結婚。これはサラが不安そうに覗いているところを切り取った、見る人に見識を要求する作品と言われています。

描かれている女性の表情はなんとも複雑で、不安の中にもちょっとした期待も伺えますが、こうした感情表現はレンブラントの持ち味で真骨頂でもあります。

ルネサンス、バロックを経て18世紀はロココの時代。その代表的な画家フランソワ・ブーシェの連作「田園の情景」、「愛すべきパストラル」(1762年・画像左)「田舎風の贈物」(1761年・画像中央)「眠る女庭師」(1762年・画像右)を鑑賞。

動的で劇的な表現のバロックに対し、ロココは非常に平面的でより優しく、優美で甘美、繊細さが特徴です。

「田園の情景」の全ての作品で、男性が女性に贈り物をしているところが描かれていて、「眠る女庭師」は寝ている女性に男性が花を、「田舎風の贈物」では小鳥をプレゼントし、「愛すべきパストラル」では女性が贈り物の果物のかごを受け取っています。

こうした構図に片桐は「貴族のマダムたちが喜ぶ絵って感じですね。こういうものに憧れるマダムたちが、一定数いつの時代も国を超えているんだなって感じがしますね」と率直な感想を語ります。

◆肖像画の価値を高めた英国の巨匠たち

西洋絵画史において英国の画家が注目されることはそれほど多くありませんが、現地では才能ある芸術家が絶えず美を追求していました。その1人、ジョシュア・レノルズの「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」(1780〜1781年)は、3人の女性がレースを編んでいます。

元来、レノルズは宗教画や神話画など、いわゆる歴史画を描きたかったものの、当時の需要は貴族からの肖像画が圧倒的に多く、彼はそれを生業にしていました。しかし、肖像画は歴史画に比べると価値が劣るものとされ、レノルズは肖像画の地位を高めるべく努力します。

この作品では女性たちの後ろに赤いカーテンがありますが、それはルネサンスやバロックの巨匠たちの色使いを参考にしていて、3人の女性の配置も神話画の古典的な主題“三美神”の構図を想起させます。しかも、手を繋いでいることが多かった“三美神”を、この作品では手を繋ぐ代わりにレースの糸を繋げており、片桐は「おしゃれ〜」と感嘆。

こうして肖像画に巨匠たちのエッセンスを加え、歴史画の様式を持ち込むことで、レノルズは貴族社会の肖像画文化に芸術性を持たせようと尽力。見事その価値は高められることに。

最後は、スコットランドの画家フランシス・グラントの「アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)」(1857年)。

片桐が「大きな絵というか、大きな人というか、何頭身この人って感じの絵ですけど……」と目を見張っていた、この作品のモチーフはグラントの結婚直前の娘だとか。

英国ではレノルズ以降、肖像画が人気を博し、グラントも肖像画家として一時代を築きます。彼にはパトロンも多く、その中にはヴィクトリア女王も含まれ、非常に人気の画家で、この作品はパリ万博で金賞を獲得。とても高く評価されるも彼は最後まで売ることなく、亡くなるまで手元に置き続けた、代表作であり、私的な父親としての目を持って描かれた作品です。

今回はルネサンス、バロック、ロココ。そして英国絵画と、時代の流れとともに、その時々の巨匠の作品を見た片桐は「求められるものであったり、画家の興味というか、そういったものが時代とともに変わっていくんだなというのが見られました」と感想を述べます。

さらに、「我々からしたらヨーロッパ全体が同じヨーロッパって感じなんだけど、やはり国によって、時代によって違うんだなってことを教えてもらいました。面白かったです。THE GREATS、美の巨匠たち、素晴らしい!」と称賛しつつ、世界を虜にし続けるTHE GREATSに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「アメリカ側から見たナイアガラの滝」

「スコットランド国立美術館 THE GREATS」の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものの中から学芸員の髙城さんがぜひ見てほしい作品を紹介する「今日のアンコール」。髙城さんが選んだのはアメリカの画家、フレデリック・エドウィン・チャーチの「アメリカ側から見たナイアガラの滝」(1867年)です。

これは展覧会の最後に飾られている作品で、スコットランド国立美術館にとって非常に象徴的な意味があるものだとか。というのも、この作品はスコットランドの貧しい家庭に生まれた人がアメリカに渡り、実業家として大成功を収め購入。母国への感謝と愛を込めて、スコットランドの国立美術館に寄贈されたもの。

そもそも、スコットランド国立美術館は開館当時、国から絵画の購入資金が与えられておらず、地元の名士や市民たちから作品自体を寄贈してもらうなど、お金を寄付してもらってコレクションを充実させていった過去があり、そうした美術館の歴史を象徴する意味合いも込めて展示。髙城さんは視聴者に向け、「実際に見て、作品の前に立っていただいて、この迫力をぜひ体感していただきたい」と語っていました。

最後はミュージアムショップへ。「これはなかなかパンチありますけど!」と片桐が思わず手に取ったのは、エル・グレコの「祝福するキリスト(「世界の救い主」)」が描かれたTシャツ。

さらには、ディエゴ・ベラスケスの「卵を料理する老婆」をオマージュしたと思しきTシャツも発見。それは作品をモチーフに、イラストレーターにかなり崩して描いてもらったもので、「(「卵を料理する老婆」がモチーフだと)言われないとわからないレベルですね(笑)」と片桐。

また、今回出品されている作品の主人公たちが話している体が取られたロール付箋に感心しつつ、最後は「卵を料理する老婆」からフィーチャーされた「目玉焼きのポーチ」。しかもこれ、なんと自分で作る手作りキットになっており、商品を手に驚く片桐でした。

※開館状況は、東京都美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週金曜 21:25〜21:54、毎週日曜 12:00〜12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/