TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。10月16日(土)の放送では「アーティゾン美術館」で“抽象絵画”の魅力を紐解きました。

◆理論を突き詰めたカンディンスキー

今回の舞台は、東京・中央区にあるアーティゾン美術館。東京駅から徒歩5分の場所にある、2020年1月に開館した新しい美術館です。“アーティゾン”という館名は造語で、アート(美術)とホライゾン(地平)を掛け合わせたもの。前身は1952年に開館したブリヂストン美術館で、近世の作品から現代美術まで約2,800点を所蔵しています。

片桐は、そんなアーティゾン美術館で行われていた展覧会「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」へ。そこでは西洋と日本の近代美術を14のセクションに分け紹介するなか、特に強調していたのは“抽象表現”。

何が描かれているのかわからず、見方が難しいと思われがちな「抽象絵画」について、その黎明期に活躍した2人の画家、ヴァシリー・カンディンスキーとパウル・クレーの作品を通して迫ります。

同館の学芸員、島本英明さんの案内のもと展示室へと赴くと、まずはカンディンスキー42歳のときの作品「3本の菩提樹」(1908年)を鑑賞。抽象絵画の創始者と呼ばれる彼はロシアで生まれ、モスクワ大学で法律や経済学を学んだ後、30代になって絵を描き始めた異色のアーティストです。

本作は彼が完全に抽象画となる前の作品で、色彩をぶつけ合い抽象的な効果を生み出そうとする意識が垣間見えますが「まだ風景画ってわかりますね」と片桐。一方で、「絵画のなかの世界は現実ではないというか、すごいバランスのもと成り立っている。これだけ色を使ったら見づらくなるはずが、スッと見られるのも面白い」と称賛します。

続いては、「3本の菩提樹」から3年後にカンディンスキーが仲間とともに発表した芸術年刊誌「青騎士」(1912年)に注目。彼は画家でありながら理論家でもあり、自分の絵画や芸術に関しての考え方・理論を文章と図版でまとめ、この「青騎士」で形を正確に捉えるという常識を捨てることこそが新しい芸術を作る第一歩だと世間に問いかけました。

当時、ヨーロッパでは各地で同じような芸術運動が勃興。パリでは「フォーヴィスム」、さらにはパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックらによる「キュビスム」。そして、イタリアで「未来派」、スイス・チューリッヒで「ダダ」など抽象画の流れがあり、片桐も「1900年代初頭の抽象画に向かっていく流れがあったんですね。エネルギーというか」と新たな時代へ向かう潮流を回顧。そうした運動の多くは、既成の権威に対する反発などがあり、既成の価値観に寄らない美術を目指していましたが、カンディンスキーはそこに“理論”を加味。それを「青騎士」に認めていました。

そして、「青騎士」は芸術グループとしての活動も開始し、ドイツ各地を展覧会で巡回。カンディンスキーは、自ら構築した芸術理論を旗印に20世紀初頭のアート界を牽引するも、その運動は3年で解散に。その理由は、第一次世界大戦でした。

しかし、彼はその後も自身の抽象絵画を貫き、さらに進化。それを体現しているのが58歳のときの作品「自らが輝く」(1924年)。片桐が「これぞカンディンスキー」と評する本作に描かれているのは多彩な色と線。「統制された黒い線と直線と曲線のバランスとリズム感というか、ルールが面白い」、「誰でも描けるんじゃないかって一瞬思うけど、これは相当計算されている。いつまでも続きそうな感じがするけど、やはり完成し過ぎてしまうと面白くないというか……」と率直な感想を語ります。

◆自由奔放に表現し続けたクレー

自らの理論を突き詰めながら抽象的な作品を描き続けたカンディンスキーの一方で、同じ時代を生きながら全く違うアプローチで抽象絵画を描いたのが、パウル・クレー。彼は「青騎士」運動に賛同し、度々作品を出品。カンディンスキーとミュンヘンで美術を学んだ先生が同じで、2人は良きライバルであり盟友でした。

「すごく立体感があるというか、建築じゃないけど、木材を並べた現代アートのような作品」と片桐が語るはクレーの「ストロベリーハウスの建築工事」(1921年)。

そこには“クレー1921 207”の文字があり、それはその年に描いた作品の通し番号で、片桐は「207枚……多いですね」とビックリ。クレーは多作な上に、そのバリエーションは豊富。抽象絵画を自由に捉え、多くの作品を生み出しました。

その証左に「数学的なヴィジョン」(1923年)は全く印象が異なります。片桐は「これは面白い、かわいらしい絵ですね」と第一印象を語るも、すぐに「これは紙ですか? 紙にこれはインクとかペンで描いていて、版画?」との疑問が。これはクレーが考案した油彩転写という技法が用いられた作品で、片桐は「絵によって技法も変えて、実験してる感じですよね」と改めてクレーの創作意欲に圧倒されている様子。

◆後世に多大な影響を及ぼした2人の巨匠の晩年

カンディンスキーとクレー、同時代に全く別のアプローチで抽象画を描いた2人ですが、その晩年も創作活動に明け暮れていました。

まずは、大きな余白と小さな造形が印象的なカンディンスキー74歳のときの作品「二本の線」(1940年)。これに片桐は「もうカンディンスキーにだけ見えている宇宙というか……試行錯誤した何十年があり、どんどん要素を減らし、安定感のある不安定というか、相反するものがある」とその作品の奥深さに息を吞みます。

一方、クレーが53歳のときに描いた作品「島」(1932年)を鑑賞すると「もうルールも何もないというか……」と感嘆。画面を均質に満たす点描が印象的で、さらにはその点が浮き立ってくるようにも見えますが、片桐は「点、点、点とやりながら何か見えてくるものがあるというか、本当に自由を感じる。何やってもいいんだよっていう。晩年になっても変わり続け、自由でい続ける感じがしますね。カンディンスキーとは違う方向に向かい、それが今見ても新しくて楽しい」とクレーに思いを巡らせます。

理論を追求したカンディンスキー、一方で自由に描くクレー。ともに第二次世界大戦の終戦を待たずして亡くなりますが、彼らの作品は1950年代にニューヨークで巻き起こった「抽象表現主義」をはじめ、後世の画家に多大な影響を与えました。

今回は、抽象絵画における2人の巨匠の作品を堪能した片桐。「抽象画の始まりを代表する2人が歴史に残っているのを実感したのと、かたや理論派で突き詰めていくカンディンスキーと、どんどん自由になっていくクレー。その違いがいいライバル関係だったんでしょうね」と2人の生涯に思いを馳せます。そして、「抽象画を理論までまとめあげたカンディンスキー、そして常に自由であり続けたクレー、素晴らしい!」と称賛し、偉大なる2人の創造者に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、エレイン・デ・クーニングの作品

アーティゾン美術館に展示されている作品の中で、ストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品をアンコールで紹介する「今日のアンコール」。今回、片桐が選んだのは、エレイン・デ・クーニングの「無題(闘牛)」(1959年)。

これはカンディンスキー、クレーが活躍した時代から約20年後の作品となりますが、「この黒い真ん中のものが牛ですかね。この筆のエネルギーというか、近くで見ても絵具の量がスゴい」と片桐は驚きつつ、「牛から描き始めたんですかね……」と作品の端緒を探ります。そして、「そのときに見た感動をその日描き終わるような、ライブペインティングをやったのかっていうくらい“芸術は爆発だ”って感じがしますよね」と作品に漲るエナジーに感動していました。

最後はミュージアムショップへ。今回の展覧会のオリジナルグッズがたくさんあり、「これは財布の紐が緩みますね」とホクホク顔の片桐。

キーホルダーやカンディンスキーのオリジナルノートやTシャツ。その他にも抽象画にフィーチャーした商品が数多く並ぶなか、特に片桐の目を奪ったのはカンディンスキーの歯ブラシ。これは生活のなかに少しでもアートを取り入れ、楽しんでもらうために作られたそうで、その思いに共感しつつ「これは買いですね、見たことない」と顔を綻ばせる片桐でした。

※開館状況は、アーティゾン美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週土曜 11:30〜11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/