ボートレース若松のSG「第60回ボートレースクラシック」は30日、準優勝戦を勝ち上がったベスト6によって優勝戦が行われる。今大会も予選、準優とじっくり戦況を見守ったボートレースファン歴47年の元天才ジョッキー・田原成貴氏(66)は、佐藤隆太郎(30=東京)を熱い視線を注いでいる。

【田原成貴氏が熱く語る】勝負の世界に生きるレーサーにとって、初優勝とは何にも代えがたい喜びだ。自分自身の競馬人生を振り返っても、ジョッキーとして成し遂げたGⅠ初制覇、調教師になって初めての1着など「初」がつく勝利は今も忘れられない。

 ボートレースは私にとって応援と舟券の対象であるが、やはり印象深い初優勝は幾つか存在する。中でも「SG初優勝」に限定すると、なぜかこの大会が頭をよぎるのだ。鳳凰賞、総理大臣杯、ボートレースクラシックと名称を引き継ぎ、60年の歴史を誇る伝統のタイトル。そう、SGウイナー誕生が最も似合うステージなのだ。

 真っ先に思い浮かぶのは私が26歳の春、平和島の第20回大会でSG初優勝を遂げた黒明良光さんの強烈なまくり差しだ。5コースからスタートを目一杯踏み込むと、1Mで鮮やかな差しハンドルを入れて突き抜けたのだ。まさに異名通りの〝弾丸〟を見た気分だった。

 ボートレースの聖地・住之江で行われた第32回大会も忘れられない。私の従兄弟に当たる西島義則のことは過去にも触れたことがあるが、彼が初めてSGを戴冠したのが1997年3月の総理大臣杯(当時)だった。〝インの鬼〟らしく3号艇でインコースを奪取して逃げ切ったシーンは、今も脳裏に焼き付いている。彼は翌年の大会でもイン逃げを決めて連覇。まさにこのタイトルが飛躍の起点なのだ。

 そしてボートレースの歴史を変えた2022年大村の第57回大会。遠藤エミ選手が女子レーサー初のSG制覇を成し遂げた。私がボートレースを見始めたころは女子レーサー不遇の時代。男子に交じって戦える女性はほとんどいなかった。遠藤選手がSG制覇を達成した時は「こんな時代がついに来たのか…」と鳥肌が立ったのを覚えている。

 こんな思い出話を書き綴っているうちに、今年もSG初制覇が見られる気がしてきた。いや、私には確かに見える。ズバリ、今大会の覇者はSG初制覇に王手をかけた佐藤隆太郎選手だ。SG挑戦4回目。まだGⅠ優勝経験もない男が何という躍進ぶりか――。

 初日からエンジンが噴いていたのは認識していたが、それを確信したのが2日目4Rだ。4カドから持ち前の伸びを見せ、スロー3艇の渡辺和将選手、峰竜太選手、上條暢嵩選手を一気にのみ込んでいった。この瞬間、私は「今節はこの男だ!」と強く思った。それほど印象的なまくりだった。その後も着をまとめて、ついに優勝に最も近い1号艇を手に入れた。

 私が佐藤選手を推す理由は、エンジンが節一級に出ていて、スタートが決まっていてハンドルが切れているのはもちろんだが、それ以上に「怖いもの知らず」のレースぶりだ。

 経験が少ないというのは、いい意味でいうと勝負の怖さを知らない。ベテラン選手にとって、これほどやっかいな相手はいない。今の佐藤選手がまさにそのモード、千載一遇のチャンスなのだ。変にアレコレ考えず、この勢いのまま突っ走ってほしい。1Mを普通に回れば、鬼のエンジンがVロードにいざなってくれるはずだ。

 それにしてもボートレースの春はすがすがしい。佐藤選手よ、春の夜風に乗って、また新たな初優勝劇を私に見せてほしい。