【美浦トレセン発秘話】2月も半ばに差しかかって美浦では、せわしない人の動きが目立ち始めた。競馬サークルにとって3月は“人事異動”の季節。開業や引退を目前に控えるトレーナーにとって、人生で最も忙しいのは実は、この時期である。そんな折、見慣れない一人の青年が唐突にトレセンに現れた。常に国枝栄調教師に寄り添うようにたたずむ男の正体…。それは今年4月に開業を迎える公営大井の新規調教師・大宮和也氏(36)である。

「千葉のジョイナスファームで仕事をしていた時に国枝先生と知り合ったんです。世代交代が著しい南関の調教師リーディングと異なり、こっちは藤沢(和雄)先生や国枝先生が、ずっとトップを張られている。その原動力を肌で感じたくて開業前に研修をお願いしました」

 サークルに血縁関係はない。好きが高じて単身飛び込んだ、いわゆる“ダビスタ育ち”のホースマンだ。動物との関わりを求めて選んだ高校を埼玉の自宅から2時間かけて通学し、卒業後は牧場修業を経て、細いツテを頼って大井・鷹見浩厩舎へ。3度目の調教師試験を見事合格し、夢をかなえたばかりのフレッシュマンである。

「学生時代に横山典さんとサクラローレルのコンビに感動して、もう自分には競馬しかないと(笑い)。当初は中央を思い描いていたんですが、諸事情で大井を選択しました。交流重賞は今、中央馬を目当てに多くのファンが足を運んでくれますが、ぜひとも地元の馬で大井のスタンドを沸かせてみたい。中央に負けない馬づくり。それが今の夢であり、目標です」

 朝の調教はもちろん、午後の作業や牧場巡りまで国枝師に同行。北の杜の新厩舎も見学するなど、とにかく精力的な2週間だった。大井の“新戦力”は、そこに何を見て、何を感じたのだろうか。

「美浦とは設備も違うため、同じ調教を追い求めるのは難しいです。ただ確実に踏襲したい“国枝スタイル”が生まれました。それはホースマンとしてのおおらかさ。この厩舎は、先生はもちろん、スタッフも全員キリキリせず、朗らかに仕事と向き合っているんです。所属馬が幸せになる空気、それが国枝厩舎の最大の強みと知りました。最後にオウケンムーンが共同通信杯を勝ってくれたし、素晴らしい時間でしたね」

 今週は砂のGIフェブラリーS(日曜=18日、東京ダート1600メートル)。いつかこの大舞台を大宮和也厩舎の“ハッピーホース”が制する日も訪れよう。彼の真摯なまなざしは、そんな期待を抱かずにいられない輝きに満ちていた。