アドマイヤキッスはあっという間に、内のシェルズレイを捕らえてみせた

【記者が振り返る懐かしのベストレース】ブエナビスタ、レーヴディソール、マルセリーナ…。名前がスラスラ挙がる“名牝の宝庫”松田博厩舎だが、意外にもローズSにはあまり縁がない。

 93年の牝馬2冠馬ベガは「牧場で順調さを欠いた」ために調整が遅れ、エリザベス女王杯(当時は秋華賞創設前)へ直行。09年の牝馬2冠ブエナビスタも海外遠征を見据えて札幌記念で始動。その後、ひづめのトラブルから秋華賞に直行した。

 同厩舎所属の唯一のローズS勝ち馬が悲運の名牝アドマイヤキッスだ。桜花賞(2着)、オークス(4着)ともに1番人気に応えられなかっただけに「何とか一つGIを勝たせてやりたいんだ。春の2走も能力で負けたとは思っていない」と当時、松田博調教師は鼻息を荒くしていた。

 不完全燃焼が続いたこともあるだろうが、トレーナーがこれだけ強い思い入れを持っていたのは「嫁にするならこういうタイプ。美人で気立てが良くて、優しくて。キャンターの走りなんか見ていてほれぼれするほど優雅。それでいて稼いでくれるんだから。言うことないわ」と言うほど心底ほれ込んだ牝馬だったからだろう。「人も馬も同じ」が口癖になっている松田博師だが、ここまでハッキリした人間像に例えたのは後にも先にもこの馬だけだ。

 最後の1冠・秋華賞のタイトルを奪取するためには落とせなかった前哨戦。直線では抜け出したシェルズレイが完全にセーフティーリードを取ったかに見えたが、アドマイヤキッスは内から馬群を抜け出し、外にコースを切り替えて猛追。自慢の切れ味を存分に発揮すると、ゴール直前では鞍上の武豊が手綱を押さえるほどの余裕を見せて標的を捕らえていた。誰もがこの瞬間は「この馬で秋華賞は間違いない」と思ったことだろう。

 だが、競馬の女神が嫉妬したのだろうか、秋華賞もまた1番人気に推されながら4着敗退。その後もGIタイトルには縁がないまま、08年に天へと召された。(2011年9月14日付東京スポーツ掲載)

著者:東スポ競馬編集部