スプリンターズステークス2022

[GⅠスプリンターズステークス=2022年10月2日(日曜)3歳上、中山競馬場・芝外1200メートル]

 競走馬一頭一頭にドラマがあれば、目撃する我々にもまた、それぞれのドラマがある。そんなシーンを取材する競馬記者は決して肩入れすることなく、冷静に、的確に伝えるのが仕事…。いやいや、思いがあふれるようなら、ありのままに伝えればいいではないか。赤城真理子記者は第56回スプリンターズSでナムラクレアを全身全霊で応援します!!

 厩舎がどれだけ究極に仕上げきり、勝てる自信を持っての出走だったとしても、ゲートが開いてみるまで何が起こるか分からないのが競馬。自信があればあるほど、力を出し切れなかった時の落胆は大きいわけで…。

 ナムラクレアの北九州記念(1番人気3着)は長谷川厩舎の方々にとっては「こんなにうまくいかないことがあるなんて…」と振り返るしかないレースだったそうです。それはボンボヤージ(16番人気1着)陣営の「全てがうまくいった」こととはまさに正反対。笑顔の勝者にドラマがあれば、その裏で涙をのんだ他17頭にも、それぞれにドラマがあるのです。

「負けてしまったけど、僕らは“クレアが一番強い競馬をしたんだ”って信じてる。スムーズさを欠いて脚を使えたのは最後の最後だけでも、素晴らしい切れだった」

 そう断言するのは、これまでずっとナムラクレアの“普段の調教”にまたがってきた中村年宏助手。彼女の追い切りには長谷川調教師か浜中騎手が騎乗するので、写真、映像などではこのコンビを見る機会は少ないかもしれませんが、競走馬にとって普段の調教も非常に大切な時間なのは確か。繊細な一面を持っているナムラクレアの調教はどこに気を付けて乗っているのでしょうか?

「う〜ん、何かを意識するというよりは、むしろ何にも考えないことかな(笑い)」

 …な、何にも考えないですと!? 私が目を白黒させていると、中村助手は続けて…。

「いやいや、ちゃんと注意はしているよ。でも、ある意味“無”な状態で乗っているっていうかさ。追い切りにテキ(長谷川調教師)や浜中くんが乗ってスイッチを入れてくれるんだから、普段はあまり追い詰めないようにしているんだ。人間の気負いや緊張感って、必ず馬に伝わるからね」

 以前、長谷川調教師から「クレアにはあまり構い過ぎないようにしている」というお話を聞きました。オンとオフの時間をハッキリとつくってあげるためだと思いますが、普段の調教から心掛けていることなんですね。

「普段、乗っていて気付くのは最近、本当に落ち着きが出てきたこと。自分を持っているのは変わらないけど、調教を苦しがらないし、馬場に行きたがらないこともなくなった。充実しているんだなと感じるよ」

 ちなみにナムラクレアは普段、周りに馬がいたほうが安心するタイプなんだそう。競走馬としての才能があるから、追い切りでは他馬を一瞬で抜き去る彼女ですが、本質的には馬が好きなんだから馬混みに入っても平気なのかな。また知らなかったナムラクレアの一面を知らされました。

 では中村助手が感じるナムラクレアの最大の強みって何ですか?

「ゴーサインを出された時の切れ。トモの入り方が尋常じゃないんだ。この世界に入って28年目になるけど、普段の背中からも“こういう馬がGⅠを取れるんだろうな”って感じるくらい、飛び抜けたものがある」

 今回は重賞6勝を挙げているメイケイエールという強敵もいますが…。

「世間的には対立構造になったとしても、ライバルをこの馬だと決めないほうがいいからね。レースに行けば全ての馬がライバル。その中でクレア自身は本当にいい状態でレースに向かえそうだし、しかも斤量53キロで出走できる。今回こそはと思っているよ」

 大勢の悔しい思いの上に成り立つ勝利。今回、喜びに打ち震えるのはどの馬と陣営なのか、それはまだ誰にも分かりません。ただ、彼女の成長を追いかけてきた一人としては、記者の立場を忘れて「それがナムラクレアと長谷川厩舎陣営であったらいいな」と願わずにはいられません。

不完全燃焼に終わった北九州記念の雪辱を期すナムラクレア

著者:赤城 真理子