インから強襲し現役最後のレースを飾ったブルーメンブラット(青帽)

【あの日、あの時、あのレース】2008年4月26日。京都競馬場で行われたメインレースを覚えている方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?

 レース名と勝ち馬の名前がスッと出てくるようなら、おそらくは生粋の武豊ファン──いや、僕のような石坂正マニアのどちらかでしょう。遠い昔、石坂正厩舎の担当としてトレセンを闊歩していたDスポーツのM浦記者も思い出せなかった一戦。しかしながら、メンバーレベルもレースの内容も濃かったんですよ。勝ったのはオーシャンエイプス、2着にはサクラメガワンダー。オーストラリアトロフィーという芝外1800メートルのレースでした。

 なぜ、マイルCSの週に全く関連性のない4月のオープン特別の話をしているのか? それはこのレースが僕の中で同年のマイルCSとリンクして記憶されているためです。武豊騎手がオーシャンエイプスを馬場の最内へと誘導し、サクラメガワンダーの猛追をハナ差で押さえ込んだオーストラリアT。レース後、武豊騎手の好騎乗を絶賛した石坂正調教師はこう言ったんです。

「そもそも馬群の外を回すような競馬がワシは好かんのよ。なんで他の馬よりも長い距離を走らせなあかんわけ。そんなもん、内ラチぴったりの最短距離を走ってきたほうがええに決まっとるやんか」

 はい、そこで同年のマイルCSです。勝ったのはオーシャンエイプスと同じ石坂正厩舎の所属馬だったブルーメンブラット。4角10番手からの差し切り勝ちだったのですが、これが前述したオーストラリアTと同じような見事な〝イン強襲〟だったんですよね。外枠だったため、どうしても馬群の外を回らざるを得なかった2着スーパーホーネットとの差は通ったコースのみ。逆だったら、それこそ結果はどうなっていたのやら…。

 レース後、騎乗していた吉田豊騎手は「イチかバチかでした」と言ってましたけど、馬群がバラける京都の外回りは内が開く。当然、それを認識してのコース取りだったことは想像に難くありません。で、スタンドで見ていた僕は「石坂先生の喜びそうな勝ち方をしたなあ」と。実際、レース後の石坂正調教師は喜色満面で、多少のキツい冗談を言っても笑っていなしてくれそうな、それくらいの喜びようでした。

「1番人気の馬を負かすなら、内から一気に出るくらいしか勝機はないと思っとったからな。ジョッキーも同じような考え方やったみたい。それも馬群にひるまない馬の根性があるからできることで、ブルーメンブラットの頑張りになにより感謝したい」(同調教師)

 これは当時の僕が書いた記事からの抜粋。なるほど、距離ロスがまったくないこともさることながら、馬の頑張りが見える勝利であること。それこそが〝イン強襲〟を好んでいた理由なのかもしれませんね。ちなみにブルーメンブラットはマイルCSを最後に繁殖へと上がりました。クラブの規定では6歳春での引退。次を欲張ってもいい状態ではあったのですが、ここで「ご苦労さま」ということになりました。

「高松宮記念まで走らせようかというプランもあったけど、それは過去の話。大きいレースを勝ってくれたんやから、もう十分」とはレース後の石坂正調教師。こんな大団円の結末も京都外回りで施行されているからこそ起きたもの。今年もさることながら、ようやく本来の舞台で行われる来秋のマイルCSを速くも楽しみにしている僕なのです。

著者:松浪 大樹