香港ヴァーズでGⅠ初制覇を成し遂げたウインマリリン(C)The Hong Kong Jockey Club

垰野忠彦【香港ヴァーズ・ウインマリリン】

 3歳でフローラS、4歳で日経賞、オールカマーと順調にGⅡで3勝を挙げたが、その後は右ヒジの持病を抱えて思うように結果が伴わず。それでも、GⅠを取れる器だと信じ続けたオーナーサイド、放牧先を含めた陣営の地道な努力で5歳になって腫れが治まり、今年8月の札幌記念3着できっかけをつかんだ。

 国内ラストレースの予定だったエリザベス女王杯に臨む直前、普段は温厚な担当の藤井助手の鬼気迫る表情をよく覚えている。「GⅡを3回勝たせてもらっていますが、GⅠタイトルがあるかないかではやはり全然、違います。だからこそ、先のことを考えても何とか取らせてあげたい。それだけの力はあるはずなんです」。後悔のないよう少しでもいい状態で送り出したい。そんな思いが伝わる念には念を入れた丁寧な仕事ぶり、渾身の仕上げだった。

 阪神への前日輸送を避け、大村助手が栗東に同行して現地で調整して本番に臨んだ。まさに厩舎一体となっての総力戦。はたして本番は残り100メートルまでトップを走り、夢を見ることができたが、わずか0秒3差だけ届かなかった。

 クラブ規定によるラストシーズン。最終戦の予定だった香港には矢嶋助手が同行。鞍上のレーンは前走で惜敗した反省を生かし、これまでとは違って後方から末脚を生かす競馬で新味を引き出す〝神騎乗〟。見事GⅠ初制覇に導いた。さらに矢嶋助手は現地滞在中に調教師試験合格の連絡を受けるおまけ付きだった。

 この勝利を受けて、続戦が決定。とりあえず来年3月のドバイシーマクラシックまで現役生活が延びることになった。熱戦続きだったサッカーW杯にたとえれば、アディショナルタイムでの劇弾で勝ち上がりといったところだろうか。

 現在の体調の良さ、脚質の幅が広がったことから、次戦のパフォーマンスに期待が広がる。そして、晴れてGⅠ馬になったことで、その先に広がる第2の馬生もますます楽しみになった。3月が待ち切れない。

 また、スタッフらの地道な努力が、マリリンの馬生を変える過程を実際に目の当たりにし、馬に携わる仕事がどれだけすてきなものか少しは理解できたような気がする。現在、JRAの厩舎スタッフは人手不足で、日本調教師会は人材を募集しているが、少しでも興味のある方はぜひこの世界に飛び込んでほしい。ここには夢とロマンがあふれている。

著者:垰野 忠彦