
アメリカジョッキークラブカップ2023
[GⅡアメリカジョッキークラブカップ=2023年1月22日(日曜)中山競馬場、芝外2200メートル]
【だから競馬が好きなんです】今週の火曜日(17日)のこと。22日のGⅡアメリカJCC(中山芝外2200メートル)に出走するバビット(牡6)の様子をお聞きしたくて、私は栗東トレセン内で浜田調教師を探していました。
朝イチは坂路のほうにいらっしゃることが多いため、運動がてら歩いて行くと道中でバッタリ! 浜田調教師は私のイレ込んだ表情を察してくださったのか、すぐに「バビットのことでしょ? 明日(18日)の最終追いも(横山)典さんが乗ってくれるって。今、時間を調整中なんです」と教えてくださいました。
横山騎手は1週前追い切りにも騎乗され「いい感じだ」とおっしゃっていましたし、総仕上げもしてくださるんだなと思うと、一ファンとしてのうれしさがムクムク湧いてきてしまいましたよね。バビットのことを大切に思ってくださっているのが、昨年9月のオールカマー取材時からずっと伝わってきていましたから…。
すると、浜田調教師が「そういえば、バビットの鞍上が典さんになった経緯ってお話ししましたっけ」と。
お恥ずかしいことに、私はむしろそのあたりはデリケートな話題かと、触れないようにしているところがありました。お聞きしていいのですか?というと、浜田調教師は以下のことを話してくださいました。
屈腱炎のため、休養がかなり長引いたバビット。いわき温泉(JRA競走馬リハビリテーションセンター)で治療を行っていましたが、オーナーも浜田調教師も彼のことを大事にしたい分、いつ復帰できるのかは分からない状況でした。
やっと復帰戦がオールカマーに決まった際には、主戦であった内田博騎手にはもう乗り馬(クレッシェンドラヴ)が決まってしまっていたのです。
「それなら早苗賞で勝ってくれた団野に頼もうかと思っていたんですけど、そちらは同日の中京メイン(神戸新聞杯=ヴェローナシチー)に乗る馬がいて。じゃあどうするか…となった時、オーナーが突然〝典さんはどうかなぁ〟っておっしゃったんですよ」
浜田調教師によると、バビットの宮田直也オーナーはご自身の馬に乗せる騎手に関して全て厩舎に一任してくださる方だそう。だからこそ、初めてご希望を口にされたオーナーのためすぐに横山騎手に依頼をされたといいます。
「そしたらすぐに〝乗るよ〟ってお返事をくれたので、典さんになったんです。競馬はいろんなタイミングが重なって、主戦だったジョッキーが乗れなくなったりすることもままある。ただ、そのぶん新しい出会いもある。典さんもバビットのことを本当に理解してくださっているし、何かの導きだったのかな」
浜田調教師はそれに続けて「オーナーが決めてくださったんだって、よく考えたら誰にも言ってなかったなと思って。これ、機会があれば書いてください」と言ってくださいました。
どうやってファンの方にお伝えしようかなと悩んだのですが、横山典騎手とコンビを組んでもう3走目になりますし、ニュースともどこか毛色が違う…。それに、浜田調教師の人柄がにじみ出るような、丁寧で心のあるお話は、その口調のままなるべく全部を書きたいと思いました。
競馬は、ジョッキーさんと厩舎が一丸となり育ててきた馬でも、人馬どちらかのケガであったり、海外ジョッキーの参戦であったり、見えない大きな力だったりの関係で泣く泣く離れなければならなくなることもあります。ただ取材する側である私ですらそれをとてもやるせなく思ったりするくらいですから、関係者の方々はもっとでしょう。苦しみになってしまうこともあるのでは。ファンの皆さんもそうですよね?
でも、浜田調教師の言うように、新しいすてきな出会いだってあるに違いないし、たとえ一度切れたように見える縁も、馬の走りの中に全てのホースマンの力が生きています。またつながることだってあるかもしれません。
バビットの鞍上が横山典弘騎手になった理由――。あえてコラムにしたことでまとまりのない感じにはなってしまいましたが、私はバビットのファンとして、浜田調教師のお話が本当にうれしかった。もっともっと応援したいと熱くなりました。ですから、こうして感情のままの共有となったことを、どうかお許しください。
バビットの走りを通してきっと見えるに違いない、彼を支えてきた人々のエネルギー。AJCCでは、それをしっかり感じながら声援を送りたいなと思います。
著者:赤城 真理子