
「自分たちは何のために馬をやっていると思う?」
ドバイ出発前の取材でシャフリヤールの藤原調教師にこう問われ、記者は明確な答えを返すことができなかった。同師はこう続けた「大谷翔平はなぜ大リーグに行った? 海外ならどこでも良かったわけではないだろう」。
今年のドバイワールドカップデーは戦前、高額な賞金面がフォーカスされることが少なくなかった。もちろん、競馬はプロ競技である以上、そうした部分を追及するのは当然。しかし、現地取材で感じたドバイシーマクラシック、ドバイワールドカップ制覇というGⅠ2勝の重みはそれだけで語れるものではない。
ウシュバテソーロでドバイワールドCを勝った川田騎手はレース後、「日本の騎手も世界レベルであるということを、馬とともに改めて示すことができたと誇りに思います」と話し、オーナーサイドは凱旋門賞挑戦という次なる夢を発表した。
ドバイシーマクラシックを圧勝したイクイノックスを管理する木村調教師は「叩きのめされた」という昨年(オーソリティ3着)の悔やしさを糧にリベンジを達成。それでもなお、昨秋2戦との比較で反省点を口にし、昨年の年度代表馬にさらなる高みを求めた。
もちろん、ほかの日本馬の挑戦にも敬意を払いたい。海外遠征の難しさに試行錯誤しながらも前を向く姿や、その日の調整がうまくいったとうれしそうに話す姿、仲間の勝利を自分のことのように喜ぶ姿…。1週間の現地取材を通して見てきたのはそういう風景だった。
一方、感情的な部分を排してレースを振り返るならサウジ転戦組の不発は今後の検証が必要だろう。日本からの遠征組より輸送がはるかに近く、長い期間メイダン競馬場に滞在して調教できるのは当初、アドバンテージと考えていた。それだけに外国馬も含め、GⅠ4レースで3着以内に入ったのがゴールデンシャヒーン3着のガナイト(米)だけというのは意外というほかない。
最後に今回のドバイ出張はドバイレーシングクラブ関係者、JRA関係者、そして記者団の方々にもとてもお世話になった。この場を借りてお礼を言いたい。「なぜ馬をやっているのか」。冒頭の答えに少しだけ近づけた気がした今年のドバイワールドカップデー取材だった。
著者:東スポ競馬編集部