マンダリンヒーローの藤田調教師(右端)と一緒に厩舎内で記念撮影(田中助手提供)

【デルマソトガケのランフォーザローゼス〜田中助手のケンタッキー滞在記〜第4回】
 どうも、音無厩舎の田中です。現在、僕は米GⅠケンタッキーダービー(現地時間5月6日=日本時間7日)に挑戦するデルマソトガケに帯同し、同馬を担当する瀬川将俊調教助手とともに、米国・ケンタッキー州ルイビルにあるチャーチルダウンズ競馬場に滞在しています。

 長い輸送と長い検疫。これまでと違う環境に適応し、慣れないダートでの調教で状態を上げていく。キャリアの少ない3歳馬にとって、ケンタッキーダービーへの参戦は、厳しい条件を乗り越えた先にあります。能力が足りていたとしても、それを発揮できる状態でなければ、目標を達成することは難しい。僕らも厳しい戦いを予想していましたし、タフな日程にソトガケが疲れを見せていた時期があったのも事実です。

 でも、そんな厳しい状況を克服し、ソトガケの雰囲気は日々上昇しています。ソトガケ自身が頑張ってくれたことが一番ですが、サウジにドバイと一緒に転戦した矢作厩舎のコンティノアール。今回の米国遠征が1頭でなく、一緒に厩舎を出発し、長い時間を過ごす仲間がいてくれたこと。本当に大きかったと思います。競馬ではライバルでも、普段はともに戦う大切な仲間──。

 そこにもう1頭。新しい仲間が加わりました。米GⅠサンタアニタダービーで2着だった大井のマンダリンヒーロー。彼もチャーチルダウンズ競馬場に入り、ケンタッキーダービー出走を目指して調整をすることになったんです。

 ダービー出走が確定しているのか、それともゲートインに届かないのか? このコラムが世に出ている段階でも、それはハッキリはしていないでしょうし、仮に出走がかなわないのであれば、2冠目のプリークネスS(現地時間5月20日)に向かうという話も聞きました。ですが、なんとかダービー出走を果たしてほしい。心の底から、そう思っています。コンティノアールとともに、世界と戦う日本の仲間が増えた。チームジャパンとして、米国の最高峰レースに挑んでやろう。そんな気持ちですから。

 実際、チャーチルダウンズ競馬場に入ってきたマンダリンヒーローの馬房を用意していたのも僕らなんですよ。細かいことを言えば、本格的な作業をしたのは競馬場の方々なのですけど、レースホースコーディネーターの安藤さんと「結果次第でマンダリンヒーローがチャーチルに来るらしい。馬房を作っとこうか」という話になり、チャーチルダウンズ競馬場にマンダリンヒーローの馬房を作ってほしい…と要請を出した。これ、サンタアニタダービーの結果が出る前の話です(笑い)。

外の世界に出たら地方も中央も関係ない

 ちゃんと結果を出して、ここにたどり着いてくれるかどうか? それもわからんかったけど、マンダリンヒーローが頑張ってくれることを信じて、このような行動を起こしたわけですが、その話をしたら、マンダリンヒーローを管理する藤田輝信調教師。むっちゃ喜んでくれましたね。え? もしかして、涙ぐんでます? それは冗談としても、それくらいに感激してくれている様子でした。うれしかったですね、本当に。

藤田調教師との食事会。700勝のお祝いもしました(田中助手提供)

 マンダリンヒーローがこちらにやって来る少し前。馬に先んじる形で藤田調教師がチャーチルダウンズ競馬場へ視察に訪れ、そのときに決起集会というか、食事会を開いてくれたんです。いろいろな話をさせてもらいましたけど、強く感じたのは「とにかくケンタッキーダービーに出たい」という藤田調教師の思いですね。それに感化される形で僕ら全員が「一緒に頑張りましょうよ」。中央競馬と地方競馬──。日本ではちょっと壁があるのかもしれませんが、外の世界に出たらね。野球のWBCではないけれど、同じ日本の仲間として頑張っていこう。そんな感じになりますよ、やっぱり。

 視察を終えた藤田調教師は日本へと帰国。ケンタッキーダービーの週にこちらへ戻ってくると聞いています。再会したときに「出走できて良かったですね。ともに頑張りましょうよ!」。そう言えるように。こればかりは僕らの力でなんとかなるわけではないけど、それがかなうと信じて、日本馬の3頭。手を取り合いながら、大一番へ向けて調整していきます。応援してください!

☆田中維就(たなか・まさなり)京都府洛水高校・馬術部出身。ノーザンファーム早来牧場を経て、ノーザンファームしがらきへ。「居心地が良過ぎて長居し過ぎた」という同施設に別れを告げ、昨年1月から音無秀孝厩舎で調教助手となった。趣味は「飲んでワイワイ騒ぐこと」だが、今回の滞在は「身の危険があるので宅飲みです」とチキンな生活をしている。

著者:松浪 大樹