筋肉の隆起が目立つようになってきたコナコースト

オークス2023

[GⅠオークス=2023年5月21日(日曜)3歳牝、東京競馬場・芝2400メートル]

 今、最も激熱な牝馬がリバティアイランドなら、最も激熱な種牡馬は? キタサンブラックであることに誰も異論はあるまい。第84回オークス(21日=東京芝2400メートル)で「1強」リバティアイランドの勢力図を覆すとするなら…。その偉大な父を持ち、その偉大な父を育て上げた厩舎が送り込む桜花賞2着馬のさらなる鍛錬による成長、進化に託す以外の選択肢はない。

 昨年の年度代表馬で、今年のドバイシーマクラシックも圧勝。現在「ロンジンワールドベストレースホースランキング」で単独1位のイクイノックスだけでなく、今年の皐月賞を異次元の末脚で突き抜け、早くも「牡馬2冠は当確」といった声も聞こえてくるソールオリエンスもまたキタサンブラック産駒。このスーパーホース候補2頭にはGⅠ7勝の父をも超える存在になるのではないかという期待が寄せられている。

 当方は清水久厩舎の担当としてデビューからキタサンブラックの取材を続けてきた。その中でも思い出深いのは2番手追走から直線でバッタリ止まって14着惨敗を喫した日本ダービー直後。厩舎スタッフからも「母系のサクラバクシンオーの血なのかな」と“距離の壁”を示唆する声が聞こえてきたくらいで、秋にはマイル路線への転向もあるのではないかと感じたものだが…。

「ダービーの敗因は決して距離ではない」と管理する清水久調教師には、まったく揺らぎがなかった。セントライト記念快勝から菊花賞でGⅠ初制覇を飾ると、その後は天皇賞・春を連覇するなど、真のステイヤーとして圧倒的な強さを見せたのはご存じの通りである。

 種牡馬入りしてからはステイヤー色のイメージが強過ぎたためか、スピード、瞬発力不足を懸念する声も聞かれたが、いざふたを開けてみるとイクイノックス、ソールオリエンスの圧巻の走りで、その評価も一変。今やオールマイティー型との評価が定着しつつある。ちなみにキタサンブラックを担当した辻田厩務員は「ダートも間違いなく走ったと思いますよ」と言っていたくらい。筋骨隆々の漆黒の最強馬は、どのカテゴリーのレースを選択しても圧倒的な強さを見せていたに違いなく、近いうちにイクイノックス、ソールオリエンスのような王道路線以外からも超大物が出てくることになるだろう。

状態面は文句なし!1週前追いも抜群

 父親が偉大過ぎたがために、前振りが長くなってしまったが、ここからが本題。当初から清水久調教師、担当の清山助手とも「オークス向き」と評していたのが、桜花賞2着馬コナコーストである。先行有利な流れの中で、番手追走から満を持して抜け出す完全な勝ちパターンに入りながらも、リバティアイランドに差し切られた牝馬第1冠だったが…。

「あれだけの脚を使われたら仕方ないよな。それに3走前のエルフィンS(2着)が強引な競馬になって、チューリップ賞(2着)はその時の疲れが残っていた中だったし、桜花賞にしても徐々に(状態が)戻ってきている過程での競馬だったんだ。そんな中でも上手に競馬をしてくれたようにセンスがいいよね」(清山助手)

 リバティアイランドに白旗を掲げる関係者が多い中で、前向きに敗戦を振り返れるのは中間の上積みに手応えを感じているからに他ならない。

「1週前のウッドでの動きが抜群で、今回は状態面に関して言うことがない。まだきゃしゃなところはあるけど、肩のあたりに筋肉が付いて、馬体をすごく良く見せているんだよね」

 父キタサンブラックは清水久流のハード調教で一戦ごとにその強さを増していった。その産駒コナコーストもまた1週前追いでウッド6ハロン79・7―12・1秒をマークするなど、攻め抜くことで桜花賞時からの全体的な底上げがなされていることに自信を深めている。

 リバティアイランドの桜花賞のパフォーマンスは確かに尋常ではなかった。しかし、キタサンブラックが見せている種牡馬としてのパフォーマンスもまた尋常ではない。その血を引くコナコーストが、ハード調教でさらなる成長を遂げているとなれば…。大逆転のシーンがあってもおかしくないと考えているのは当方だけではないはずだ。

著者:難波田 忠雄