ダービーの栄冠に輝いたタスティエーラ陣営

日本ダービー2023

[GⅠ日本ダービー=2023年5月28日(日曜)3歳、東京競馬場・芝2400メートル]

 3歳馬7708頭の頂点を決める日本ダービー(東京芝2400メートル)が28日に行われ、好位から運んだ4番人気のタスティエーラ(牡・堀)が、90代目の栄冠に輝いた。鞍上・レーンは69年ぶりのテン乗りVという偉業を達成。レース後、落鉄も判明した今年のダービー馬。2015年ドゥラメンテ以来のV2となった陣営から出た将来性とは?

 上々のスタートから押して4、5番手へ。道中うまく折り合いながら運び、直線ではいち早くスパート。残り200メートル過ぎに抜け出すと、あとは内から4、5頭分ほどの〝Vロード〟を一直線。追い上げるソールオリエンスらの追撃を見事にしのぎ切った。

 4回目の挑戦で日本ダービーを制した鞍上のレーンは「アリガトウゴザイマス!」と日本語であいさつ。「この馬はポジションを取ってリラックスし、折り合える競馬が強み。今日はポジションが良かったですね」と笑顔を見せた。

 短期免許騎手のダービー制覇は20年ぶり。テン乗りでの勝利は実に69年ぶりという快挙だったが、当人は「ダービーで初コンビでの勝利は難しい? 聞いたことないですね」と一笑。ジンクスなど気にするそぶりを見せないハートの強さもプラスに出た。直後に行われたGⅡ目黒記念でもヒートオンビートでテン乗りVを決め、重賞連勝というから、確かにこの男にテン乗りうんぬんは関係なかったか。

 レーンの身元引受調教師でもある堀調教師は「私もレーン騎手も朝に馬場をチェックするのですが、馬の状態、馬場状態を研究し、シミュレーションしながら話し合います。最後は『調教師はレースで何もできないのだから任せてください』と言われるんですけどね。今日も信頼して任せました」と舞台裏を明かした。レーンの強さの秘密は騎乗技術だけでなく、的確な馬場読み技術にもあるわけだ。

輸送を考慮した「天栄」選択

 もちろん、今回は馬の状態も抜群だった。前走の皐月賞(2着)当時はテンションの高さが感じられたが、放牧を経て立て直した今回は実に穏やか。輸送の負担などを考慮し、放牧先を厩舎が定番として使用しているノーザンファームしがらきでなく天栄にしたのも好判断だったのだろう。

 ひとつの転機となったのは、共同通信杯4着後、中2週で臨んだ弥生賞を制したことだ。

「共同通信杯の時は、後から考えれば仕上がり切っていませんでした。ただ、あそこで適性が浮き彫りになり、体調と相談しながら使ったことで結果が出ました。その後は自信を持って行ったので、そこが非常に大きかったですね」

 レース前の会見で「基準がいいのではなく、基準をやったことでわかったことをフィードバックするのが大事」と話していたトレーナー。共同通信杯後の〝動き〟もその一環だったのだろう。

 堀師にとっては自身が管理したサトノクラウン産駒で、2015年ドゥラメンテに続くダービーV2。当時との心境の違いも明かして、「ドゥラメンテは圧倒的な力を持っていましたから、まず勝つだろうと思っていました。レース当日に馬場をチェックしたところ、硬くて水気が全くなかったので、爆弾を抱えていたこともあり、レースが終わった後どうなるかの方が心配でした。今回は人馬一体になって力を出せれば、あとは運を天に任せてという気持ちでした。あの時とは見守る気持ちが違いました」と打ち明けた。

 完成度が高くキャリア9戦全連対、皐月賞を制してのダービーだったドゥラメンテに対し、タスティエーラは経験を積みながら進化してきた〝ステップアップ型〟。言うなれば叩けば叩くほど強くなる鉄のようなものか。加えて左前を落鉄しての栄冠…。まだまだ伸びシロ満載の令和5年度ダービー馬。前途洋々だ。

著者:東スポ競馬編集部