【白井元調教師と学ぶ血統学「温故知新」】
 元JRA調教師の白井寿昭氏に指南役をお願いし、様々な角度から血統を考える連載の第118回。愛読者から寄せられた質問に対し、白井氏が一つひとつ答える特別編となっている。本来は有料会員限定の当コラムも、今シリーズは無料開放となっているので、この機会に競馬への見聞を広めていただきたい。

 進行は東スポ競馬・関西地区本紙担当であり、白井氏との親交も深い松浪大樹記者。今回も同氏の本音をビシッと聞き出している。

フクムの配合相手を模索

 松浪大樹(東京スポーツ記者=以下、松浪)そろそろ終了させたいと思っている読者からの質問コーナー。今回で8回目です(苦笑)。

 白井寿昭氏(元JRA調教師=以下、白井)なかなか興味深い話が多くてね。終わることができひんかったね。

 松浪 中断した話を進めていくと、現在のテーマは「先生が自由に種付けできるとしたら、どの馬を選びますか」というものでしたが、先生が…という注釈にもかかわらず、今回は僕が種牡馬を選択しまして。

 白井 で、その相手を僕が選ぶ…。

 松浪 はい。しかも、日本の競馬ファンにはなじみがあまりないような馬を父馬に選びましたので、そこがどうかという気もしています(苦笑)。対象馬は一昨年のコロネーションC、昨年のキングジョージを勝ったフクム。ダーレージャパンでの供用になりますね。

 白井 バーイード(GⅠ6勝馬で2022年欧州年度代表馬)の全兄やったかな。女王陛下の血統。ハイクレアの血があるというだけで文句なし。少なくとも、僕にとってはね(笑い)。

 松浪 5代血統表ではハイクレアの名が消えてしまうのですけど、血統が好きな人であればね。ハイトオブファッション。これだけで「オッ」となるでしょうし。

 白井 それ以外にも掛け合わせがすごいという話をして、前回は終わったんやったね。

 松浪 はい。ここで前回までの補足は終了です(笑い)。

 白井 シーザスターズ×キングマンボの血統をどれに付けるのか? 問題はそこになるね。これがなかなか難しくて…。

 松浪 牝馬のリストは社台系列の馬が多いですし、実現はしないかも…ですけど、そこは自由に選んでいただいて。アーモンドアイにラヴズオンリーユーでも大丈夫ですよ。

 白井 これ、一般的には欧州の血統になるんやろうけど、この馬自身にはミスプロのインブリード(4×3×5)があるやんか。スピードが足りないはずもないし、キングマンボは日本でキングカメハメハを出しとって、それがサイアーラインを広げている。成功していいと思うし、どれを付けても合いそうや。

ディープインパクト産駒グランアレグリアは?

白井元調教師と学ぶ血統学【118】

 松浪 先生が決め切れていないようなので、まずはグランアレグリアあたりで配合を見てみましょうか。母の父がタピットのディープインパクト産駒です。

 白井 なるほど。いい感じで米国っぽいスピードが出そうやな。

 松浪 2頭をマッチングすると配合表はこんな感じになりますね。インブリードはフクムの中にあるミスタープロスペクターの4×5だけですが、配合的には悪くない気がします。

 白井 どちらも一流馬で血統もしっかりとしている。悪いはずがないけど、このフクムを付けるのであればな。キンカメの血を持っている馬でキングマンボのクロスをつくりたい。そんな感じにならへん?

 松浪 僕もそう思いました。それなら、もう一度ソダシを選んでみます? エフフォーリアのところでも高評価でしたし。

 白井 僕もソダシがええかな…と思った。あれは本当に付けやすい繁殖かもしれんな。有望。

何でも付けやすいソダシ

白井元調教師と学ぶ血統学【118】

 松浪 で、これが配合結果ですけど…。確かにソダシだと実にいい感じですねえ! キングマンボの3×4があって、ミスタープロスペクターが4×5×5(ミスワキ、キングマンボの父)。

 白井 やっぱり付けやすいんだよ、ソダシは。これが活躍したら、次はサンデー系の種牡馬にいける。インブリードもつくれる。

 松浪 キングマンボであるなら、ドゥラメンテの繁殖でもいけますよね? 3冠牝馬のリバティアイランドとか。試してみましょうか?

 白井 それも似たような配合になるはず。インブリードとかも。

 松浪 確かに。インブリード的にはほとんど一緒ですね。キングマンボの3×4。ミスタープロスペクターが4×5×5。サンデーサイレンスの場所がちょっとだけ違う。

 白井 ダーレーとノーザン。実現することはないんやろうけど、こういうのは面白いし、こんな感じの馬を日本に持ってきたら、キングマンボのインブリードを簡単につくれるんやな。そう思えるね。

 松浪 しかも、奇跡の血量で。

 白井 そう。売りやすい馬ができるわ。

 松浪 リバティアイランドやスターズオンアースはありえない話でしょうが、ドゥラメンテの繁殖を持っている人にとっては興味深いというか、狙ってみるのも面白いかもしれません。可能性を感じますね。

 白井 まあ、ノーザンの馬はイクイノックスがおるからな。そっちで十分とも思うけど。リバティアイランドにもスターズオンアースにも付けられるから。

 松浪 でも、僕は結構好みですよ、フクムの血統は。バーイードと思い込んで種付けしたい(笑い)。

 白井 キングマンボの位置が3代目。これがええんやろうな。ロードカナロアとか、ドゥラメンテなら母系は4になるわけやし、3×4がつくりやすい。でも、キングマンボはうるさいで(苦笑)。扱いが大変。そこもポイントになるかもしれん。

アーモンドアイなら名牝だらけの配合に…

白井元調教師と学ぶ血統学【118】

 松浪 せっかくの機会ですし、イクイノックスの相手とされるアーモンドアイも掛け合わせてみましょうよ。あれもロードカナロアですから。

 白井 キングマンボとかは同じインブリードになるけど、あれならヌレイエフのクロスもできるんちゃうか。

 松浪 おっしゃる通りです。ヌレイエフの4×5(ミエスクの父)が成立しました。

 白井 フクムの血統は名牝がズラリと言ったけどな。アーモンドアイも同じ。あの馬の母はウチにいたフサイチパンドラで僕はこの馬が気に入っていたから。ベストインショウ。

 松浪 それを理由にしてフサイチパンドラを選択した…と言っていましたね。

 白井 そう。フサイチパンドラは僕が見つけたわけでなくて、フサイチの関口さんが買ったいくつかの馬の中から選ばせてもらった。パンドラ以外はサンデーの牡馬で、普通ならそっちに行くところやけど、僕はこれが良かった。

 松浪 理由は血統ですね。

 白井 もちろん、馬そのものも良かったけど、ベストインショウからセックスアピール。やってみたい血統やった。これしかないと思ったわ。

 松浪 セックスアピールの産駒にはトライマイベスト、エルグランセニョール。トライマイベストはラストタイクーンの父ですから、キングカメハメハにも通じる血統と言えますよね。

 白井 そうやで。つまりアーモンドアイの血統は父系、母系ともにセックスアピールの血が絡んでる。僕にとっては最高の血統と言えるわけよ(笑い)。

 松浪 フサイチパンドラはそこにヌレイエフですから。

 白井 言うまでもないけど、ヌレイエフの母はスペシャル。エルコンドルパサーで有名なヤツや(笑い)。

父アダイヤーにもチャレンジ

白井元調教師と学ぶ血統学【118】

 松浪 フクム×アーモンドアイの配合は名牝だらけの血統で目がくらみますね(笑い)。ちなみに同じダーレーにアダイヤーというのがいるのですが、これをアーモンドアイに付けてみてもいいですか?

 白井 フランケルか。ちょっと微妙な気もするけどな。あれ、種付け料は高いけど、日本に向いていると思えんし。

 松浪 でも、アダイヤーはフランケルにドバウィですよ。種付け料が高い馬同士の組み合わせ。

 白井 これが配合表? ノーザンダンサーの5×5(サドラーズウェルズとヌレイエフのの父)があるだけ。これならさっきのフクムやな。アダイヤーはドサージュ的にスピードよりもスタミナやで。短距離用の馬に付けたほうがええと思う。

 松浪 日本馬ではイクイノックスがイチ推しでしたけど、それ以外に推せる日本の牡馬はいますか?

 白井 難しいね。ミックファイアなどの走りはすごいなとは思うけど。種牡馬となるとな。芝を考えられないのは厳しいかもしれんし。

コントレイル×アーモンドアイの夢配合

白井元調教師と学ぶ血統学【118】

 松浪 では、最後にアーモンドアイを先生がもらえるとして、最初に付けようと思う馬はどれになりますか?

 白井 挑戦してみたいと思うのはコントレイル。サンデーのインブリードは3×3くらい?

 松浪 そうですね。まさに3×3。ストームキャットは4×5(コントライヴの父)

 白井 それくらいならええんとちゃう。2×3というのがいるくらいやし(苦笑)。

 松浪 ストームキャットの気性難が出なければ、ムチャクチャ切れそうです。

 白井 僕はサンデーとキンカメのニックスは世界に誇れると思っていて、これを基準にして配合を考えたいと思っている。アーモンドアイがまさにそういう馬やったけど、そこにサンデー系をもう一つ持ってきて、「これでもか!」と。コントレイルの話をすれば、これは母の父がアンブライドルズソングやろ? スワーヴリチャードもそうやけど、アンブライドルズソングが入ってくると柔軟性が出ると言うか、結構な確率で成功する感覚があるんやわ。それもあってコントレイルはかなり有望と思ってる。

 松浪 なるほど。すでにセレクトセールでは大人気のコントレイルですが、初年度産駒の活躍が楽しみですね。

 白井 好きな馬を1頭ずつ選んで…という本来の質問からは少し離れた格好になってしまったけど、このような空想の話は競馬ファンの方もできることだし、その馬を掛け合わせる意味を考えるきっかけになる。血統を理解するという意味で、面白い試みやったかもしれんね。

 松浪 そうですね。これをきっかけに興味を持ってくれる方が一人でも増えてくれると僕もうれしいです。ちなみに次回からは通常運転。サンデーサイレンス編でお会いしましょう!

白井氏も高い期待を寄せるコントレイル
白井氏も高い期待を寄せるコントレイル

☆白井寿昭(しらい・としあき)1945年生まれ。広島県呉市に生まれ、大阪で育つ。68年に上田武司厩舎の厩務員となり、78年にJRA調教師免許を取得。79年に開業した。95年のオークスをサンデーサイレンス産駒のダンスパートナーで制してGⅠ初勝利。98年日本ダービーなど、GⅠ4勝を挙げたスペシャルウィーク、国内外でGⅠを6勝したアグネスデジタルなどの名馬を管理した。2015年、定年により調教師を引退。現在は競馬評論家として活動している。

著者:松浪 大樹