ある日の夕方、妻は普段とは明らかに異なる様子で私に話しかけてきました。

「ちょっと相談したいことがあるの」

私は妻の不安な表情に困惑しながらも、妻の話を聞きながら、その都度真剣にアドバイスをしました。

「……それは違うと思う。こういう方法もあるんじゃないか?」

ところが、妻はどんどん不機嫌になり、最後には黙りこんでしまいました。はっと気がつくと、妻の頬からホロホロと涙がこぼれ落ちていました。

「私の話をちっとも聞いてくれていないわね」

私は、訳がわからなくなり、とても困惑しました。

「ちゃんと聞いてるよ!!」と私は思わず声を荒げてしまいました。

「私はあなたからのアドバイスなんていらない。ただただ私の話を聞いてほしかっただけ」

言葉を失いました。自分ではちゃんと妻の話を聞いているつもりでした。でも妻はまったく聞いてもらっている感じがしていなかったのです。そして、妻は最後にこう言い放ちました。

「あなたは人の話を聞いているようで、まったく聞けていない」

ビジネスシーンでもよく見られる光景

このときの体験は、今でも記憶に鮮明に残っています。あなたはどうでしょうか? このような場面はプライベートに限らず、ビジネスシーンにおいても多く見受けられます。

例えば、部下が上司に対し真剣に説明しているにもかかわらず、上司はパソコンの画面を向いたまま「それで……なるほど……もういいよ、わかった……」と生返事で一度も部下の顔を見ずに話を済ましてしまうようなケースです。

上司としては話を聞いているつもりでも、部下としては自分の存在を軽く見られているのではないか? と不安あるいは不信を感じてしまいます。どう対処したらいいのでしょうか。

多くの人が誤解しているのは、「コミュニケーション力のある人=話すのがうまい人」ということです。コミュニケーション力(=話し上手)であれば、仕事も人間関係もうまくいく、という勘違いがまかり通っていますが、実はそうではありません。

拙著『「聞く力」こそが最強の武器である』でも解説していますが、そもそも人間には「他者から理解されたい、受け入れられたい」という「承認欲求」があります(マズローの欲求階層説)。