ヤクザといえば、全身入れ墨のうえに派手なファッションに身を包み、ベンツを乗り回して高級クラブで飲み明かす……テレビドラマや映画の影響でそんなイメージが植えつけられているが、それはどれほど本当なのか。本当だとすればどんな意味があるのか。暴力団取材のプロである溝口敦氏と鈴木智彦氏が、ヤクザビジネスの全容に迫った『職業としてのヤクザ』より一部抜粋・再構成してお届けする。

ヤクザの「ねじれた価値観」

溝口敦(以下、溝口):一種の顕示的消費というのがヤクザにはあって、例えば、クラブに行って、大きな金額をきれいに払えば、かっこいいヤクザだと見られてうれしいと。そういう意味で、ヤクザの場合は、デモンストレーションとしての金払いという側面がある。

鈴木智彦(以下、鈴木):ばくち場では、金離れがよく、払いがきれいだと男を上げました。そこでの所作が器量の証明になった。その名残だと思います。人気商売なので、裏の仕事は人気のある組織に集中する。こうした金は宣伝費のようなものです。

溝口:例えば、六代目山口組の中核組織である弘道会若頭の野内正博のエピソードとして、銀座のクラブでたった10分座って飲んで、金額が20万円だとしたら30万円多く払って、店の人が「親分、こんなにすみません」と礼を言ったら、「いや、わしらの仕事は金を使うことぐらいしかありません」と言う。今どき、そんな金遣いができるヤクザは日本全国に5人といないと思いますが。

鈴木:これも一種の自卑です。われわれのようなヤクザは、金払いのよさで世間に貢献するしかないという、ねじれた美学があります。

溝口: 稲川会会長だった稲川聖城が、散髪をやってもらって、チップが100万円だったと。みんな驚いて、何で床屋に100万円やるんだって聞いたら、「いや、どうせやるなら目立ったほうがいいから」と言っていたと。これこそが顕示的消費です。

鈴木:実際、熱海(稲川会発祥の地)で稲川会を悪く言う人はいなかった。金の切り方が半端ではない。土地に根付いているから、地元は大事にします。

溝口:そうです。裏でみかじめ料をたっぷりとっているくせに、使うときにはそういうふうに使う(笑)。一昔前までは一晩50万円は当たり前として、月20日で計算するなら、飲み代だけで月1000万円。それが当たり前の世界でした。