教育の世界で長く議論になっている「褒めるか? 叱るか?」問題。褒めるのが大切とわかってはいるものの、しつけのためには叱らざるをえない、と考える親も多いのでは? 褒めてばかりだと、ストレス耐性が身につくかどうかも心配です。

そこで本稿では、かつて麹町中学で学校改革を主導した現・横浜創英中高の校長・工藤勇一氏が、脳の視点から見た「叱る」の本当の弊害を明らかにします。「脳神経科学と子どもの教育」をテーマにした研究結果(『最新の脳研究でわかった!自律する子の育て方』)から導き出した、自ら動く子に変わる「3つの言葉がけ」とは?


人はストレスが許容量を超えると心理的危険状態に陥り、理性的に自分をコントールすることが難しくなる。みなさんも子どものころによく叱られた人であれば、「たしかにそうだ」と思うでしょう。

たとえばADHDなど発達に特性のある子どもが授業中に自分の衝動を抑えられなくなったときに教員が叱りつける行為に出ると、その子はますます感情をコントロールできなくなったり、不適切な行動を止められなくなったり、理性的に考えることができなくなる。その様子をみた先生が、事態をおさめることができない自分に対する恥ずかしさも相まって、感情が爆発し、ときにはダメだとわかっているのに子どもを殴ってしまう。こんな悲しい光景が全国の学校で見受けられます。

実はこのとき、子どもも、先生も心理的危険状態に陥っている可能性が高いわけですね。もちろん教員・生徒の間だけではなく、親子間、先輩・後輩の間でもよくある光景です。学校だけを見ても子どもたちを心理的危険に追い込むストレス要因は叱責だけではありません。

・校則
・体罰
・重圧
・対人関係
・仲良く
・部活動
・団結
・通知表
・宿題
・テスト
・偏差値
・平均点
・受験

挙げればキリがありません。いまの日本の学校に通っている子どもたちの中には、こうしたストレス要因に押しつぶされそうになりながら、必死に毎日を過ごしている子どもが少なくありません。

心理的安全を高める2つのポイント

子どもの成長には身体の成長と脳の成長があるわけですが、脳の成長は知識を詰め込むことだけではありません。脳を思う存分使いながら、考える力、創造する力、対話をする力、感情をコントロールする力などをさまざまな体験を通して鍛えていく。それが社会に出たときの生きる力の礎になります。

しかし、学校や家庭が子どもにとって緊張感や嫌悪感、不信感に満ちた環境だとすれば、子どもの脳にはストレスがかかりっぱなしで脳を訓練するゆとりがもてません。子どもの脳を自由にすくすく伸ばしていくためには、できるかぎり子どもの脳に不要な負荷をかけず、心理的安全状態に保っておくことが重要です。