シンガポールに住んで5年目になるが、東京に比べて非常に子育てがしやすい。東京の街中をベビーカーを押して歩いているときに舌打ちをされるといった、子連れが肩身の狭い思いをすることはほとんどない。電車に乗れば、幼い子ども連れには競うように何人もが席を譲ってくれることもある。

街中の子連れへの優しい視線に加え、共働きが前提の社会であるためのサービスの多様さにも助けられる。保育園から幼稚園、学童とそれぞれのステージごとにさまざまななサービスを選ぶことができ、また、親の負担になりがちな子どもの送迎ではスクールバスを利用するというオプションを選べることも多い。タクシーや配車サービスが安価で、大抵の時間帯で簡単につかまるのも、緊急時などにありがたい。

しかし、これはあくまでも、余裕のなさすぎる東京との対比で、また、いつか母国に戻る選択肢のある外国人の感覚かもしれない。この連載でここまで見てきたように、ここで産まれ、ここで生きていくことが基本である人たちにとって、シンガポールの教育システムは、ときに過酷だ。そして、選択肢は多いけれど、選ぶには逐一お金がかかる。

あるシンガポール人を配偶者に持つ日本人女性は「私たちは引っ越せないので、今この環境で子育てをしているけど、あえてシンガポールで教育を受けさせたいとは思わない」とつぶやく。

極めて低い出生率から見えること

実際に、住んでいる人たちにとって必ずしも子育てがしやすいとは言いがたいことをうかがわせるのが、シンガポールの極端に低い出生率だ。

シンガポールでは1970年代以降に急速に少子化が進み、現在では出生率が1.2を下回っている。都市国家であることを踏まえ東京と比べれば同程度だが、日本全体よりも低水準ということになる。

シンガポールは1965年の独立当初は増加する人口と失業問題の解決を狙って「子どもは2人まで」というスローガンを掲げ、出産抑制政策を取った。しかし、1970年代に出生率が低下すると、出産奨励へ方針を転換しはじめた。

2001年以降も、Marriage and Parenthood Packageという支援策を年々手厚くしている。しかし、その後も出生率は低迷。女性の高学歴化が未婚化・晩婚化をもたらしていること、結婚したカップルの中では結婚時年齢が高ければ子どもの数が減ることなどが少子化の要因とされている。