生き方や生きる道は決して一つではありません。現在はお金持ちほど注目や称賛を集めやすい時代ですが、キリストの影響力が強かった時代にはそれとは「真逆」の考え方もありました。キリストが「金持ちを目指す人生」を嫌った理由とは? 作家の佐藤優氏の新刊『13歳からのキリスト教』より一部抜粋・再構成してお届けします。

聖書を読むと、わたしたちがふだん当たり前だと思っていること、正しいと思っていることが、じつは間違っているかもしれないと気づかせてくれます。

たとえば努力して勉強して、将来は、フェイスブック創始者のマーク・ザッカーバーグや、アマゾン創始者のジェフ・ベゾスのように、成功して金持ちになりたいという夢を思い描いていたとしましょう。事業をおこして成功してお金持ちになる人は、いまの世の中ではヒーローですし、みんなから賞賛されます。

「金持ちが天の国に入るのは難しい」

ところが、聖書のなかで、イエス・キリストはこう言っています。

「はっきり言っておく。金持ちが天の国に入るのは難しい。重ねて言うが、金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」(マタイによる福音書19.23-24)

らくだが針の穴を通ることはまず不可能ですから、金持ちが天国に行くことはまず不可能だ、と言っているのです。

あるとき、お金持ちの青年が、イエスのもとにやって来ます。お金持ちの青年は、「天国に行くには、どんな善いことをすればよいのでしょうか」と聞きました。するとイエスは、「掟を守りなさい」と言います。

掟とは、ユダヤ教徒が古くから守ってきた「律法」といわれる戒律のことです。ユダヤ教は、当時の人々に広く信仰されていた宗教です。

その掟のなかでも、イエスはとくに「殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証するな、父母を敬え、また、隣人を自分のように愛しなさい」という掟を守りなさい、と言うのです。

お金持ちの青年は、「それなら全部守ってきましたが、ほかになにか欠けているでしょうか」と尋ねます。するとイエスは、もしも天国に行きたいのなら「持ち物を売り払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に富を積むことになる」と答えます。つまり、その青年がいま持っている全財産を、すべて売り払えと言うのです。

青年は悲しみながら立ち去ります。手放すのが惜しいほどの、たくさんの財産を持っていたからです。

お金と財産をたくさん得ることは、この世では成功者です。しかし、天国に行きたいなら、お金と財産をすべて手放しなさい、とイエスは言うのです。