日本人の「読解力」が落ちていると言われています。OECD(経済協力開発機構)の調査(2018年)では、日本の読解力の順位が前回調査(2015年)の7位から15位に下がりました。なぜ今、日本人の読解力は落ちているのでしょうか。落ちた結果、どんな不具合が生じているのでしょうか。外交官として、作家として読解力を磨き続けてきた佐藤優氏が、近著『読解力の強化書』をもとに解説します。

本を読むほど思考が偏る

そもそも、「読解力」とは何でしょうか? 言葉の通り解釈するならば、それは「読んで理解する力」「読み解く力」ということになります。では、本をたくさん読んでいる人が、読解力が高いかというと、必ずしもそうではありません。インターネットを駆使してたくさん情報に触れている人が、読解力が高いか? これもまたそうとは言えないのです。

むしろ情報や知識にたくさん触れているのに、自分の考えや先入観に凝り固まり、他人の意見や自分とは異なる考え方を聞き入れようとしない人が増えているように感じます。

素直にテキストを読まない、素直に人の言うことを聞かない。自分の考えが先にあって、異質なものを受け入れない。たくさん本を読んでも、情報に触れても、自分に都合のいいものだけを受け入れ、都合の悪い情報は捨ててしまうのです。これでは本を読むほど、情報を集めるほど、思考が偏ってしまいます。

その典型的な例が、最近巷に増えている陰謀論や謀略史観でしょう。特定の秘密結社や集団が、世界の政治経済を牛耳っているというような考え方は、以前からありました。

私自身、以前は外務省でインテリジェンスの仕事をしていたので、それこそ国家の陰謀や策略のうごめく世界で活動してきました。国際社会の中で、実際に様々な国や集団が、自らの利益を最大化するために、日々駆け引きしています。しかし、新型コロナはアメリカと中国のウイルス戦争だなどという話になると、あまりにも非現実的です。