ドイツ中部カッセルで6月に開幕した世界的な美術展「ドクメンタ」で、反ユダヤ的だと批判される出品作を撤去する騒動が起きた。主催者は当初、作品に黒い幕をかけることで「表現の自由」についての問題提起とすることを模索したが、結局は撤去に追い込まれたという。
著書『犠牲者意識ナショナリズム』で、犠牲者民族だという記憶を振りかざす韓国、イスラエル、日本、ドイツ、ポーランドの攻撃的なナショナリズムを批判した韓国・西江大の林志弦(イム・ジヒョン)教授は、「ホロコーストに関するドイツの記憶コンプレックスが背景にある」と指摘する。ドイツに滞在している林教授に話を聞いた。

世界的な美術展で起きた作品撤去

澤田克己(以下、澤田):5年に一度開かれるドクメンタは、現代美術の先端を行く作品を集めた世界的な展覧会ですね。インドネシアのアーティスト集団が制作した高さ18メートルという大きな垂れ幕に描かれた「民衆の正義」という作品が問題視されました。

林志弦(以下、林):イスラエルの情報機関モサドのヘルメットをかぶったブタが他国情報機関のブタと並んでいたり、もみ上げをクルクルと伸ばした正統派のユダヤ人がナチ親衛隊マークの帽子をかぶったりという姿が描かれていた。ユダヤ人に対するステレオタイプに基づく描写だという批判は免れない。

澤田:この集団はこれまで、他国での戦争や暴力と現代のインドネシアを関連付ける作品を制作してきたそうですね。問題とされた作品も、インドネシアを1990年代後半まで支配したスハルト政権の暴力を考察するというのが主題とされていました。