これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
「姉が通っていた東京の私立大学は奨学金制度が充実していて、それを見て『なるほど。そういう大学もあるのか』と、自分でも調べるようになりました」
「姉の存在」が大学進学に影響
この連載のインタビューは「奨学金を借りた理由を一言でいうと?」という、質問から始まる。これまで見てきた通り、多くの取材相手が「実家が貧乏だったから」と答えているが、今回話を聞いた東北地方出身の小川智夏さん(仮名・32歳)は貧乏に加え、2歳上の「姉の存在」を挙げた。
「わたしは3人きょうだいの真ん中で、実家は農家で常にお金がありませんでした。そんな中、2歳上の成績優秀な姉は、応募要件は厳しいものの返済不要な給付型奨学金をもらいつつ、第一種奨学金(無利子)を借りていたんです」
そんな勉強タイプの姉と異なり、小川さんはバリバリの体育系。高校はスポーツ推薦で入学するほど、部活に明け暮れていた。
「スポーツ科ではなく、県立高校の普通科で、わざわざ寮にも入っていたのですが、結局3年間でインターハイは一度も行けず、いつも県内のベスト4止まり……。
わたしはスタメンから落ちることもあったので、大学もスポーツ推薦は望めません。先輩たちは高卒で自衛隊に入ったり、体育大学に進んで体育教師か警察官になる人が多かったのですが、別にそういう職業に就きたかったわけでもないので、普通に勉強をがんばって高校卒業後は大学に進学しようと思いました」