もう1つ、別の背景もある。約50年前の文化大革命の時期には、おしゃれや化粧をしていると「ブルジョアのお嬢さん」「資本主義の追従者」と見られ、厳しい批判を受けるおそれもあった。発展途上国としての経済的な問題もあり、長い間、女性はメークをすることもなく、ネービーやグレーの制服しか着ることができなかった。

今の若者世代の母親たちは、その時代を経験しているため、化粧になじみがなく、抵抗すらある。そうした思考が娘たちにも影響を与えているのだ。それだけでなく、共働きなので日本の専業主婦のように時間をかけて自分をきれいにする時間の余裕もないという事情もある。

日本と異なり、化粧品に対する不信感も

中国では、自国で流通している化粧品への不信も根強い。中国国家食品薬品監督管理総局は、検査に落ちた「不合格」の化粧品のリストを公表している。「鉛の過度の添加」「抗生剤の過度の添加」「使用禁止の化学成分の添加」など肌への悪影響が不合格のいちばん多い理由になっている。

不合格化粧品のリストには欧米や日韓の有名ブランドも登場するため、メディアも「有名ブランドの化粧品も肌に悪い」と取り上げがちだ。そのため、中国女性には「化粧品は肌によくない」と化粧品をネガティブにとらえる人も多い。

確かに中国社会は日進月歩で、海外との接触が増えており、若い中国人女性のメークアップや身だしなみを磨く意欲は親世代の何倍にもなっている。だが、現実では中国はまだ「メークは当たり前」という社会環境ではないのだ。

中国の若い女性はなぜ、自撮りに夢中になるのか。それは、SNSというバーチャル世界では、加工した写真によってあこがれの自分を作り上げることができるからだ。

現実の世界では、会社でもカジュアルな服装にすっぴんで過ごすので、おしゃれしてきれいになる機会が少ない。一方、中国のSNS社会では、面白い表情を作った「変顔」や個性的な写真より、「顔値(イエンジー、顔の偏差値)」が高い写真が好かれる。つまり、きれいな顔だったら変顔でもきれいだが、そもそも「きれいでないと意味がない!」という暗黙のルールがあるのだ。

欧米の若者のように「リアル」で活気ある笑顔が最高というのと違い、中国の若者女性の投稿基準はとにかく、きれいかどうかということだ。「きれい」の基準はまず、異常なまでにやせていること。あごは錐(きり)のようにシャープで、目は西洋人形のように大きい。そして、ニキビやシワが1つもなく、少女どころか乳幼児のような肌を目指す。

今、美貌を武器に売り出す網紅(ワンホン、ネットアイドル)は、全員このような顔をしているので「網紅顔」と呼ばれ、一部の若い女性があこがれる対象になっている。網紅はSNSなどで活動することで経済的利益も得ようとするので、実際に美容整形に踏み切ったり、念入りにメークしたりする。ただ、もっときれいになりたいと願う、一般の中国人女性はどうすればいいのか、という疑問も浮かぶことだろう。