その答えが自撮りの加工なのだ。整形が怖くてできないから、テクノロジーの力を借りて、顔を細くして目は大きく、肌を白く、脚も長くした写真をSNSに投稿することになる。

化粧のテクニックを身に付けるまでには時間がかかるし、毎日化粧すると変なことを言われるし、肌にもよくないという考えが強い。だから短時間で理想的な化粧した自分を作るには自撮りしかない、というワケだ。

SNSの中にある「理想的」な世界

中国の若者が使うSNSを開くと、人物の写真に限らず、料理の写真でもおいしそうに見せる「グルメ」フィルターをかけていない事例は極めて少ない。SNSに自撮りを投稿すると、友達は「いいね!」を押してくれるし、「かわいい♡♡」という褒め言葉だけではなく、「どの加工アプリを使ってる?」などとコメントも次々に届く。

現実世界の本人よりはるかにかわいい写真がSNSにあふれる状況を作ったのは、現代の中国の若者に共通する、退屈な現実社会から逃げ出して、ネット社会で理想的な人格を持とうとする心理かもしれない。
 
 カシオは、このSNS社会の美しい写真に依存する中国若者女性のニーズをとらえる的確なマーケティング戦略で成功を収めてきた。

だが、中国市場はそれで勝ち続けられるほど甘くはない。無料美人加工ソフトの発達、動画型自撮りの流行、低価格で美人加工機能を高めた中国産スマホの普及など、カシオにとっての逆風といえる要素は徐々に強まってきている。

今後のカシオには「自撮り」「美人加工」だけではなく、たとえば日本女性の美意識やライフスタイルのイメージを取り込んで、新たな視点で中国市場と向き合うといった工夫が問われている。

「美しくなりたい」「もっときれいに写りたい」という意識は世界共通だ。しかし、国民性の違いにとどまらず、世代や年齢によってもその実現方法は異なる。自然発生したブームに乗るだけのビジネスでは、いつか終わりがきてしまう。今後、中国で特に若者向けのビジネスを展開しようとする日本企業は、ブームの先頭に立ち、あるいは、自らブームをリードしていくことにも挑戦していくべきだ。