「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」

この1文は、よく知られているように、日本国憲法第9条第2項で記されているものである。

自衛隊は軍隊か

この条文が明瞭に示しているように、日本は、いわゆる「戦力」を保持することができない。憲法の中核的な理念として平和国家としての理想を掲げ、戦力不保持をその柱としているからである。もしも日本が「戦力」を持つ必要があるとすれば、それは憲法を改正することが必要となる。

ところが、現在の自衛隊が保有する装備に目を向ければ、航空自衛隊は世界でも有数の戦闘能力を有する第5世代戦闘機のF35を保有しており、海上自衛隊は空母への転用が可能といわれている、ヘリコプター搭載型の護衛艦いずもを擁している。イージス艦やミサイル防衛など、自衛隊は世界でも有数の最先端の装備を保有しており、日本は自国民や自国の領土を防衛するための高い水準での防衛力を持っている。

だが、これらは「戦力」ではない。それは自衛のための「実力組織」であり、「実力」を行使することは、憲法上許容されている。これでは、実にわかりにくい。日本は、軍隊を持つことが許されているのか、許されていないのか。自衛隊は軍隊なのか、それとも軍隊ではないのか。憲法が許容する「実力」と、禁止をしている「戦力」との間で、明確な線引きをすることは可能なのだろうか。

そのような用語を使い分けることで、憲法の理念と現実の防衛力整備との間の整合性を確保しようとする政府のこれまでの姿勢に対して、国民の間で不信感が見られても不思議ではない。そのようなわかりにくく位置づけが不安定な自衛隊の地位を正すために、憲法を改正することを求める強い磁力が存在する。

私が編者となった『軍事と政治 日本の選択 歴史と世界の視座から』でも詳しく解説しているが、憲法改正をめぐり、これまで日本政治は左右の間のイデオロギー対立を繰り返してきた。とはいえ憲法改正を主張する保守勢力の側も、憲法改正を阻止しようとするリベラル勢力の側も、自衛隊の憲法上の位置づけが不安定なものであるということについては、おそらく意見を一致させているのではないか。