昨今、にわかに盛り上がっているのが「貨幣論」だ。ビットコインやリブラに代表される暗号資産(仮想通貨)、MMT(現代貨幣理論)、キャッシュレス化の流れなどが相まって、貨幣という「ありふれてはいるが不思議なもの」への関心はかつてないほど広まり、また注目度も高まってきている。

こうした状況の中で『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る 「欲望の資本主義」特別編』が上梓された。貨幣の性質の核心を突く研究で知られる岩井氏は、今、“貨幣の本性”をどのように考察しているのか。最新、最前線の「貨幣論」を詳らかにみていく。

貨幣とは何か、その不思議な性質

「あなたにとって貨幣(マネー)とは何か?」

この問いは、どんな人にとっても答えにくいものではないか。その答えによって自身の人間性が暴かれるような怖さがあり、それにおいそれと即答することはなかなかできない。

ただ、経済学者であれば「経済学者にとって貨幣とは何か」と読み替えて、よどみなく答えられるかもしれない。

貨幣とは、(1)価値交換、(2)価値測定、(3)価値保存、を行うものである、と。厳密に定義を説明しなくても、おそらく想像はつくだろうが、貨幣の存在によって、経済活動は便利かつ円滑に行うことができる。

貨幣がない物々交換の世界では、欲しいものを持っている人とモノを交換するために人探しから始めなければいけないし、さらには相手が私の持っているモノを欲している必要がある(“欲望の二重の一致”という)(1)。

釣った魚の価値を決めるのに、ほかの小魚の何匹分という測り方よりは、「価格」をつけたほうが便利だろう(2)。

また、将来欲しいものを買うために、物々交換用のモノを蓄えておくのは不便であるから、価値が変わらず腐りもしないコンパクトな金属片や証書のほうが使い勝手がいいに違いない(3)。

それなしの経済を考えることすら難しい、経済活動の根幹を支える貨幣は、しかし不思議な存在でもある。貨幣はなぜ、貨幣として使われうるのか。