新型コロナウイルスの感染拡大以来、各国でマスクが十分に供給されない状態が続く中、台湾が迅速に取り組んだマスク対策は世界に強烈な印象を与えた。

台湾のマスク対策と聞けば、真っ先に名前が挙がるのが天才デジタル大臣こと唐鳳(オードリー・タン)氏によるマスク管理アプリだろう。だが、台湾のマスク対策の成功の要因はITだけではない。約3カ月という短期間にマスク生産力を10倍以上に向上させ、供給力を大幅に増強させた。

新型コロナ流行前、台湾の1日当たりのマスク生産量はわずか188万枚だった。これを4月末までに1700万枚超に押し上げ、生産量は中国に次いで世界2位へと躍進した。その後も増産は続いており、4月下旬には台湾政府が日本にマスク200万枚を寄贈している。

コロナ流行前から始まったマスク対策

マスク不足から一転、いったい何が台湾を世界有数の「マスク生産国」へと成長させたのだろうか。台湾のマスク増産への取り組みは、コロナ流行前夜から始まっていた。

マスク増産のキーマンの1人が、経済部(経済産業省に相当)民生化工グループ長の洪輝嵩氏だ。洪氏は台湾の紡織業界に最も影響力があると言われている人物である。洪氏は「多くの人が、『SARS(重症急性呼吸器症候群)のような感染症の流行は再び起きるだろう』と話していた」と語る。2003年に流行したSARSの教訓から、台湾では今でも感染症流行への警戒心が高い。

洪氏によると、2019年11月末に中国で「原因不明の肺炎」が発生した頃、台湾政府はすでに警戒を高めていたという。12月中旬には、中国で新型肺炎の確定例が増加。台湾では2020年1月21日に初めて感染者が確認された。台湾ではここから感染拡大に関するあらゆる措置がスタートした。

その裏で洪氏が行っていたのは、台湾における医療物資メーカーのリストアップだ。医療物資にはマスクのほか、消毒用アルコールや耳式体温計、防護服などが含まれる。感染拡大防止策を担う国家衛生指揮センター(NHCC)が本格稼働する際に、すぐに動けるように準備をしていたのだ。