名捕手不在の時代=プロ野球界の衰退につながると、私は思う。それを避けるためには、何よりもプロ野球界に捕手のスタープレーヤーが必要である。ジャイアンツの阿部慎之助が引退してしまった今、誰が次の「名捕手」と呼ばれる存在になるのか? 

その先頭に立っているのが福岡ソフトバンクホークスの甲斐拓也と言えるが、「名捕手」と呼ぶにはまだちょっと早い。彼は2020年シーズンから私が現役時代につけていた背番号「19」番をつけるという。彼にはもっともっと研鑽を積んでもらい、誰もが認める「名捕手」に、そして「19番と言えば甲斐」と呼ばれる存在になってもらいたい。

プロ野球「スター流出」の危惧

何事もそうだが、強いレベルの相手と戦わなければ自身のレベルは上がっていかない。

1995年に野茂英雄がロサンゼルス・ドジャースとマイナー契約を結んで以降、日本プロ野球界を代表するピッチャーやバッターたちが海を越え、メジャーリーグに移籍していった。

最近では2017年に二刀流の大谷翔平がロサンゼルス・エンゼルスに移籍して大きな話題となった他、2019年には横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智がタンパベイ・レイズへ、埼玉西武ライオンズの秋山翔吾がシンシナティ・レッズへ、それぞれポスティングシステムを使って移籍した。

近年相次ぐスター選手のメジャーリーグへの流出に、私はある種の危機感を抱いている。このまま子どもたちの憧れのスター選手が次から次へとメジャーリーグに流出し続けたら、日本の野球は間違いなく衰退していくからだ。

私は昔から「エースと四番は作れない」と言っている。150キロを超える剛球を投げる素質も、ホームラン王を争うような長打力も、その選手が持って生まれた天賦の才と言える。そんな華のあるプレーでファンを魅了する「スター選手」たちの存在は、野球の神様からの恵みとしか言いようがない。そんな貴重な存在を、今のプロ野球界は手をこまねいて、次々とメジャーリーグに手放してしまっている。これではまるで、日本プロ野球はメジャーリーグの下部組織(マイナーリーグ)だ。

韓国プロ野球には、アマチュア選手の海外流出を防止するための規約がある。韓国球団のドラフト指名を拒否して海外球団と契約した選手に対し、その後、海外球団から解雇されたとしても、韓国プロ球団とは2年間契約できないようになっている。日本もそのようなシステムを一刻も早く作るべきだ。

さらに言えば、私はメジャーリーグの優勝決定戦が「ワールドシリーズ」と呼ばれていること自体が腹立たしい。真の「ワールドシリーズ」はアメリカのみならず、中南米、アジアなどの代表によって競われるのが本当の姿であって、今のメジャーリーグの「ワールドシリーズ」は「USAシリーズ」と呼ぶほうがふさわしい。

近年、各国代表チームが競い合う「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)」が4年ごとに開催されているが、あの大会にはアメリカの一流選手はほとんど出場していない。

だからまずは、真の意味でのクラブチーム世界一を争う「ワールドシリーズ」を開催し、世界の野球を盛り上げてほしいと思う。

野球は、弱くてもちょっと頭を使えば「強者を倒せる」スポーツである。メジャーリーグのチャンピオンが圧倒的に強いとしても、日本のチャンピオンが拮抗した戦いに持ち込む方法はいくらでもあるはずだ。相手チームを研究し、戦略を練り、力で勝る相手を倒す。これこそが野球の最大の魅力であり、野球ファンが見たい戦いなのだ。

日本球界のレベルアップのためにも、真のワールドシリーズの開催を、私は強く願っている。

著者:野村 克也