オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。

退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、新刊『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。

今回は、労働者を雇う会社側の力が強くなりすぎ、労働者が「安く買い叩かれる」状態である「monopsony(モノプソニー)」が、日本の経営者の質を下げていることを解説してもらう。

労働者を安く買い叩いている「証拠」

前回の記事(日本人の「給料安すぎ問題」の意外すぎる悪影響)で説明したとおり、「新monopsony論」では、雇用者側の力が強くなりすぎると企業の平均規模が小さくなり、生産性が下がって、所得水準が低下するとされています。

この現象が本当に起きているかは、有効求人倍率を見れば確認できます。

新古典派の経済学では、労働市場は完全競争の状態にあると考えます。完全競争下では、賃金水準は需給の関係によって決まるため、経営者はその水準で労働者を雇用することしかできない、いわば受身の立場にあるとされています。経営者が賃金に影響を与えることはできないとされているのです。

この理屈が正しいとすると、経営者が求人をする場合、市場価格に則した賃金を提示して募集を行い、一定の期間を経て、すぐに働き手が見つかることになります。

逆に、有効求人倍率が高いまま推移しているとすれば、企業が出している条件で働き手が見つからない状態が続いているということになるので、経営者が需給関係を逸脱した低い賃金を提示し続けていることを意味します。それでも求人を継続するということは、経営者側がモノプソニーの考えを持っており、市場価格を下回った賃金でも採用できる労働者がいると期待しているということになります。