車体構造の基本となるプラットフォームやe-POWERユニットはノートと同じだが、キックス用に大幅な改良を実施。ボディやサスペンションの剛性を高め、e-POWERを進化させた。最高出力はノートの80kWから95kWへと、19%アップ。中低速ではなるべくエンジンを作動させず、モーター駆動中心の制御とした。より力強く走るようにしたが、エンジン始動の回数が減ったので、静粛性が向上した。

もちろん、先進運転支援システムのプロパイロットも標準装備している。走りも居住性も実用性も優れており、しかも先進運転支援システムも万全。まさに、全方位的にスキのない内容だ。

近く、トヨタから同じコンパクトSUVの「カローラクロス」が登場する。しかし、ライバルが多いのは、悪いことばかりではない。ジャンルの注目度が高まり、それがセールスの追い風になることもある。そういう意味でキックスの前途は、それほど悲観することはないだろう。

日本だけでなく世界での勝負も見据える

もう1つのキックスの特徴は、生産面にある。e-POWERを搭載する日本向けのキックスの生産はすべてタイで行われるのだ。つまり、日本市場では輸入車となる。日本国内での生産の予定はなく、日産はその理由について「e-POWERを搭載するキックスをグローバルで展開する予定があるからだ」という。

5月に発表された構造改革プラン「NISSAN NEXT」には、「e-POWERをグローバル市場のB、Cセグメントに拡大」とある。このBセグメントのe-POWERの担い手の1つにキックスが該当するのだろう。ただし、Bセグメントのクルマが売れるのは、欧州やアセアン、中南米といったところ。「日本、中国、北米」といったコアマーケットへの集中といった方針からは外れる。

タイで作って中国に持っていくのか、それともアセアンや欧州で展開するのか。はたまた、ルノーや三菱ブランドで販売するのか。それとも2023年以降を見据えた対応なのか。そうした戦略の詳細は、アナウンスされていない。

筆者の個人的な意見では、アセアン展開がいいと思っている。

「ダットサン」は新興国向け低価格ブランドとして2013年にスタートしたが成功しているとは言い難い(写真:日産自動車)

アセアンにおける日産ブランド向上に使うのだ。過去に日産は、アセアンで「ダットサン」ブランドを立ち上げて失敗している。

日産のセカンドブランドとして立ち上げたものだったが、あまりにも安っぽいクルマを作って、ファンにそっぽを向かれた。そうした日産ブランドの名誉回復には、高品位な日本仕様のキックスは効果があるはずだ。

ブランド回復には時間がかかるが、アセアン地区のビジネスは将来の日産にとっても必要不可欠だ。日本仕様のe-POWERキックスは、日本だけでなくアセアンでも、日産の苦境脱出の一助となるだろう。

著者:鈴木 ケンイチ