航空需要の先行きは不透明なままで、ANAがコロナ禍の当初から繰り返してきた「雇用を守り抜く」という方針の実現性も問われている。業界団体のIATA(国際航空運送協会)は7月28日、世界の航空需要が新型コロナの感染拡大前の水準に回復する時期を、従前の見通しから1年遅らせた2024年に後退させている。

業績悪化を受け、ANAは夏季一時金の削減や採用の凍結など、合理化施策をすでに講じている。ただ、従前の想定以上に需要の低迷が長引けば、路線縮小とそれに伴う希望退職者の募集のような、より踏み込んだ手段は避けられない。

福澤常務は「早期退職は今年に限らず行っており、事業構造改革の中でそういったものが求められるのであれば、必要に応じてやっていく」としており、一定規模での希望退職の実施に含みを残した。

国際路線削減の可能性も

2020年3月の羽田空港発着枠拡大による国際線の成長を見越し、ANAはここ数年、人員を増やしてきた。2015年3月期と2020年3月期を比べると、国際・国内線における合計供給量(総座席数×輸送距離)は、1097億座席キロから1274億座席キロへ16%増だったのに対し、従業員数は3万4919人から4万5849人へ31%も増やした。コロナの影響が長引き、こうした戦略が裏目に出た格好だ。

積極拡大路線を続けてきたANAは従業員の雇用を守れるのか(撮影:今祥雄)

同社は今後、機材の早期退役や中期的な非航空事業の育成など事業構造改革を打ち出す。その本丸と見られるのが、片野坂社長が示唆する国際線を中心とした路線削減だ。福澤常務の「おそらく2020年の(10月から始まる)ウィンターダイヤを決めていく中で具体的に話せる」という言葉からは、その検討がなされていることが推し量られる。

2010年に経営破綻したライバルの日本航空は、今もなお元従業員による不当解雇の訴えが株主総会の会場前で繰り広げられている。ただ、日本航空は5215億円の債務免除や路線拡大の抑制など、財務健全化を最優先させた結果、2020年3月末時点の有利子負債は1917億円にとどまる。

ANAはその日本航空を横目に、積極的に路線を拡大して国内最大手の座を奪取したが、その結果、2020年3月末時点での有利子負債は8428億円と日本航空の4倍超まで膨れ上がっている。

ANAは巨額の債務を抱えながら「雇用死守」を本当に貫けるのか。決断のときは迫っている。

著者:森田 宗一郎