また、一旦インターネット上に個人情報や誹謗中傷が掲載されると、時間が経過しても残り続けてしまうというリスクもある。このことを、一度入れた入れ墨が消しにくいことになぞらえて〝デジタル・タトゥー〞と呼び、河瀬弁護士は、2019年に放映されたNHKの連続ドラマ『デジタル・タトゥー』の原案も手がけている。

たとえば、新聞社などのサイトに掲載された逮捕記事が一定期間後に削除されても、掲示板サイトでは削除されないため、転載されてしまえばいつまでも個人の逮捕歴が残ることになる。誹謗中傷の投稿が事実と違う内容であっても拡散・流布されてしまえば、まことしやかにささやかれていく。そのため、弁護士による迅速な対応が必要になるのだ。

理由は「恨み」ではなく「思い込み」

誹謗中傷した60代男性がA社を攻撃したのは、積年の恨みつらみであったかというと、そういうことでもないらしい。きっかけは、ネット上に、「A社の上層部は金を使い込んでいる。その金で豪遊している」というような投稿が載っていて、男性がそれを信じ込んでしまったことだった。

「だから、オレの給料が上がらなかったのか!」

そう思うと、悔しくてたまらなくなった。

「私は会社側の代理人だったので、男性が現役時代にどんな不満を持っていたのかはよくわかりません。でも、長く同じ場所にいると、給料が安いとか上司が嫌なヤツだとか、多少なりとも、その程度の不満を持っている人間はいくらでもいると思います」と、河瀬弁護士は語る。

匿名だから過激になったのだろうか。

「匿名だから好き勝手ができると思っているのは、若年層が多いのではないでしょうか。高齢者は結構無防備に個人情報を書きますよ。だって、元社員と書かなくてもいいのに、わざわざ掲示板に書いている。それもあって、会社では、その人物を特定しないといけないと思ったのでしょう」

ネット風評被害を受けた場合、書き込みを削除しただけでは、発信者は痛くもかゆくもない。そこで、発信者が特定されると、次には名誉棄損などを理由に損害賠償請求を行う。このケースでは、発信者情報開示請求によって特定後、訴訟を起こす前に内容証明を送ったところ、男性が謝罪してきたという。このようなネットによる誹謗中傷事件の場合、損害賠償請求に踏み切ると、加害者は慌てて謝罪するケースが多い。

「高齢者の場合、年金生活でそれほど支払い能力がない加害者もいるので、分割にするとか、本当にお金がない場合には誓約書を書かせて終了することもあります」