「昔から、近所でぶつぶつ文句を言っているような、ちょっと変わった老人は珍しくなかったですよね。それはせいぜい半径数十メートルの狭い世界の出来事でした。ネットによる誹謗中傷問題は、いままでごく狭い範囲だったのが全世界に発信していき、顕在化するようになったとも言えるのです」と、河瀬弁護士は語る。

ファイナンシャルプランナーの山岸葉子さん(65歳・仮名)の住むマンションにも、駐車場を偵察するのが趣味の、暇というか風変わりな70代後半の女性がいる。

毎日、100台以上ある専用駐車場を端から端までルームナンバーをチェックしながら見て回り、住人や管理人に「〇〇さんのところには見慣れないバンが停まっていた」「他県ナンバーの車を置いている」「商用車の駐車場契約は違反なのに店の名前が書いてあった。又貸しではないか」などと逐次報告するらしい。

「『山岸さんのところに白い新車が停まっていて、昨夜は泊まったようだ。あれは男が来ているんじゃないか』と尾ひれをつけて言いふらすけれど、隣人の私には『誰の車?』と尋ねたりしない。仕事帰りに手伝いに来てくれる息子の車なんですけどね」

毎度聞かされるマンションの住人は、「そうですか」と適当に答えて聞き流してくれるが、「『山岸さんの家には若いのから年配まで、いつもいろいろな男性が入っていく』と噂しているのですって。この歳でまだ現役扱いされるなら喜んでいいのかしら?(笑)自宅はオフィスも兼ねていて、会社名も表示しているのだけど、自己チューには勝てませんね」

居酒屋談義がネットに移行した結果…

確かに、話がマンション内にとどまっている限りは聞き流していればいい。おそらく、女性は年齢から言ってパソコンには詳しくないだろう。しかし、もしもネットに入れ込んで、同じことをネットで垂れ流したら大ごとになるだろう。新橋駅付近のビルで居酒屋を営む大将によれば、「安倍晋三首相(当時)が大嫌い」と言う常連がいるという。

「テレビに首相が出ると、『あの、ばかやろう』と怒って、ひとりでテレビに文句を言っているんだよ。別の客が首相の話をしているだけで、『あの野郎は嘘つきだ。加計問題だって、絶対嘘をついている!』と言って口出ししては怒っているね」

これも、小さな居酒屋でクダを巻いている限りは酒の席の話で済む。

「だから、居酒屋談義とか老人の独り言がネットに移って、大ごとになってしまったという一面はあると思うのです」と、河瀬弁護士は語る。

著者:林 美保子