そんなインフルエンザの治療薬として開発されたアビガンが、なぜ新型コロナの治療薬として一躍注目を浴びるようになったのか?

アビガンは、RNAウイルスであるインフルエンザウイルスのRNA複製を通じたウイルス増殖をブロックする。このため、同じRNAウイルスである新型コロナウイルスでも有効かもしれないという発想が根本にある。

現在、新型コロナに対して日本で承認された唯一の治療薬であるベクルリー(一般名:レムデシビル)も、もともとはアフリカで散発的に発生し、感染者の高い致死率で恐れられているRNAウイルスのエボラウイルスに対する治療薬として開発中だったものが転用されている。

エボラに関しては“有望視”の範囲

ちなみにアビガンも西アフリカのシエラレオネを中心とする2014年のエボラ・パンデミックで臨床試験が行われている。その結果、エボラウイルス感染者の中でも血液中のウイルス量が少ない場合は死亡率の減少傾向が認められたが、一般的な新薬の臨床試験のような厳格な比較試験ではなかったため、このデータは治療薬の正式な承認申請には使えず、“有望視”との範囲にとどまっている。

このように既存薬を新型コロナの治療薬に転用しようとするのは、イチから新型コロナの治療薬を開発すると、膨大な時間がかかるからである。

一般論として新薬になりそうな化合物が、動物実験、ヒトでの臨床試験を経て市場に出るまでには約20年、総コストとして約200億円はかかる。しかも、新薬候補が有効性・安全性が確認されて、無事市販にこぎつけられる確率は実に1万2888分の1という超低確率(日本製薬工業協会のデータ)。現在進行形のパンデミック収束のため、イチから「博打」を打つ時間的余裕はないのである。

こうした中で、中国科学院武漢ウイルス研究所の研究グループが試験管内で新型コロナウイルスに対する7種類の薬剤の抗ウイルス効果を検討した研究が2月上旬に発表され、そこで有望とされたものの1つがアビガンだった。

この報告などを受けて、日本でも2月下旬くらいから新型コロナの患者を診療する医療機関の一部にアビガンが提供され、試験的に投与されていた。ただ、新薬の承認となると、臨床試験そのものが倫理的・科学的に妥当なデザインであることが求められる。