そもそもUSMCAは(7月1日から)12月31日までの6カ月間が「実施の第1段階」である準備期間と位置付けられ、この間はUSMCAの完全な執行が控えられることになっている。事実上、USMCAの運用が走り出す年明け以降に政権が交代するならば、合意内容がある程度巻き戻されてもさほど不思議ではない。5月以降、利下げが重ねられてもメキシコペソが堅調な背景にはそのような政治的思惑が働いている部分もあるのだろうか。

過去5年程度を振り返ると、2014年中頃から見られた原油価格の急落や、2015年以降のアメリカの利上げ局面の始まりに伴うドル高がメキシコペソの売りを誘ってきたのは明らかである。しかし、それに続く2016年以降の一段安の背景には、移民や貿易に関して強硬な対メキシコ政策を押し出していたトランプ政権の誕生があったことも忘れてはならない。

メキシコペソにも持ち直しの機運

メキシコペソは産油国通貨の一面もあることから、コロナショックに伴う原油価格急落のあおりを受けた新興国通貨の1つだが、現状では持ち直しを探る機運が強まっている。バイデントレードが隆盛となり、コロナ以前の水準に戻れるかどうかは大統領選挙に絡めた為替市場の注目点の1つであるように思う。

他方、トランプ政権は一貫して株式市場をサポートしようとする姿勢であったため、バイデン氏の増税路線も相まって、株が手放される展開には納得感がある。もっとも、バイデン氏が増税路線だからといって、コロナ禍での臨時歳出が抑制される可能性は高くないし、株価が動揺すれば議会は動かざるをえないだろう。「非常事態でやるべきことは誰がなっても変わらない」というのは日本の安倍晋三政権から菅義偉政権への移行に伴っても指摘された点である。

近年、注目材料に乏しい為替市場だが、アメリカ大統領選挙に絡めてどの通貨が物色されるのかは考えておきたいところだ。

著者:唐鎌 大輔