ここまで触れてきたJR山陽本線(JR神戸線)や阪急・阪神・山陽といった私鉄路線は、いずれも兵庫県の中では圧倒的に海側を通っている。このあたりの街、とくに県都神戸市は東西に細長く海際に平地を持ち、後背には六甲山地が控える。

六甲山地を駆け登る神戸電鉄。遠く向こうには海も見える(筆者撮影)

逆に言えば、神戸付近は平地が実に狭い。市街地を拡大するためには六甲山地を切り開かねばならぬ。となると、峻険な六甲山地をいかにして乗り越えるかは兵庫の鉄道史における大きな課題だったといっていい。何しろ鉄道は勾配が大の苦手。対して六甲山地はかつて源義経が平家の軍勢相手に“鵯越の逆落とし”で奇襲したことが伝説として伝わるほどの急な山である。おいそれと鉄道で乗り越えられるような山ではないのだ。

そんな大きな課題を克服したのが神戸電鉄である。神戸の市街地・新開地に端を発する神戸電鉄の路線は、一気に六甲山地を駆け登る。義経の軍勢が馬に乗って逆落としをした山(というよりもはや崖である)を鉄のレールと車輪で走る鉄道が果敢に挑む。これがかなって六甲山地の北側と神戸の中心地が楽々と結ばれ、神戸の市街地が一気に拡大することになった。1920〜1930年代のことだ。

北神急行が市営化

今では、六甲山地を南北に貫く路線は神戸電鉄だけにとどまらない。今年市営に移行した元北神急行を含め、神戸市営地下鉄の路線が六甲山地に挑む。ただ、こちらはトンネルという現代の武器を存分に使っている。トンネル工事が楽ではないことは百も承知だが、神戸電鉄の時代と比べればだいぶ気軽に鉄道も六甲山地を越えている。

神戸市営地下鉄も六甲山地を切り開いた新興住宅地を目指す(筆者撮影)

加えて阪神高速道路や県道95号線といった道路も六甲山地越えを果たす。結果として神戸電鉄の存在感が薄れてしまっているが、それでも初めて神戸を訪れて六甲山地を越えようとするならば、新神戸駅から地下鉄北神線に乗るのもいいが、遠回りして新開地から神戸電鉄に乗ることをおすすめする。やはり山越えは多少の苦労を感じなければ面白くないのである。