デジタル庁の創設により加速すると期待される日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)。「日本がデジタル化で遅れる決定的な構造要因 国家・産業・企業における競争戦略を考える」(2020年10月3日配信)に続いて、特に「ヘルスケア分野」におけるデジタルトランスフォーメーションに着目して解説します。

なぜヘルスケア分野に注目するのか。医療・介護産業はマクロとミクロが表裏一体であり、規制業種としてマクロの影響を強く受ける点が特徴です。そしてヘルスケア分野に注目する最大の理由は、菅政権の目玉として語られる規制改革(行革)、コロナ対策を含む医療政策(厚生労働)、デジタル庁(IT)の3つを三位一体に結びつけるものこそ、ヘルスケア分野でのDXだからです。

テクノロジーの活用で日本を「健康先進国」へ

まず現行の医療政策の方向性を確認しておきます。具体的には地域医療構想、保健医療2035、未来投資会議の3つが示唆を与えてくれます。

地域医療構想は、厚生労働省によると「2025年に向け、病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能ごとに2025年の医療需要と病床の必要性を推計し、定めるもの」としています。少子高齢化を受け、高齢者医療ニーズも医療費も高まるなか、全国341の「構想区域」ごとに2025年における必要な病床数を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つにわけて推計、効率的な医療体制の実現につなげます。

一方、保健医療2035は「2035年、日本は健康先進国へ」という前向きなメッセージを掲げるものです。急激な少子高齢化などさまざまな課題に直面しながらも、国民の健康増進、保健医療システムの持続可能性の確保、保健医療分野における国際的な貢献、地域づくりなどの分野における戦略的な取り組みを検討します。

そして未来投資会議は、国の成長戦略につながる投資活動を政府と民間の有識者が議論する機関として誕生しました。議長は安倍晋三・前首相本人でした。菅新政権発足後、10月9日に「未来投資会議を廃止し、成長戦略会議に衣替えする」との発表がありましたが、今後、会議体自体は進化していくものの、大きな政策には変更はないと考えられます。ここでも「健康・医療・介護」は大きなテーマ。技術革新やデータの利活用による国民の健康維持・増進、医療・介護の質向上、医療従事者の働き方改革などが議論されました。

以上から読み取れるのは、国は医療の「成長産業化」に舵を切った、ということです。従来は、高齢化の進行、生産年齢人口の減少などを背景に、医療費削減をはじめとする「下りのエスカレーター」に乗るかのような医療政策に焦点が置かれました。それをテクノロジーによって「上りのエスカレーター」に乗り換えようとしている。ヘルスケア分野のDXを成功させることで、日本を健康先進国とする。これはすでに重要な国策です。