新型コロナウイルスの流行は、日本においてデジタル化が進展する契機になったといえる。民間ではテレワーク、Eコマース(EC)などデジタルを使ったサービスが大幅に伸びている。一方、政府部門については、デジタル化の遅れが大きな問題として注目された。野村総合研究所では「デジタル資本主義」というコンセプトを打ち出し、近著『デジタル国富論』でその近未来の姿を分析している。野村総合研究所の此本臣吾社長に話を聞いた。

――コロナ禍に伴う給付金の支給などで日本では政府部門のデジタル化の遅れが指摘されました。菅義偉内閣ではデジタル庁を設置し、取り組みを進めることになりました。

国のデジタル化はウェルビーイング(国民の福利といった意味)に結びつくといわれているが、単純な国際比較はすべきでない。例えば、お手本としてよく挙げられる北欧は日本とは土壌が違うことに注意が必要だ。

エストニアやデンマークなどはもともと役所の機能が脆弱だ。こうした国では公務員が人気のある職種ではなく、十分な人もおらず、質も揃っていないのでデジタルに置き換えなくてはならない。そのために何を置いても国民にIDを持たせる必要があるという発想だ。また、スウェーデンなどは、広い国土に人口が分散しているので、隅々まで人的な公共サービスは行き届かない。冬は極寒で移動にも大きな制約を受ける。

マイナンバーの普及が進まないと話は始まらない

しかし、日本の場合は役所に質が高く、モラルも高い職員がいる。10万円の定額給付も遅れが指摘されたものの、現場の頑張りでやり切ってしまう。中途半端にデジタル化するよりも、質の高い職員を活用したほうがいいと考える。だから、デジタル化して生産性を上げようというモチベーションがなかった。

ただ、これだけテクノロジーが進むと、やはり便利なので日本でもこれを使わない手はない。そのためにはまず、マイナンバーのような国民のデジタルIDを普及させないと話は始まらない。安倍政権下で菅さんはデジタル・ガバメント閣僚会議を立ち上げて、2019年の暮れにはマイナンバーカードの普及を2023年までに100%にすると言った。初めてマイナンバーカードの普及目標を設定したわけだが、今年9月1日時点で普及率は19.4%にすぎない。去年は14%だったので、進んだとはいえるが、いろんな策を打っても5ポイント程度しか上がらない。「23年に100%」はそうとうにハードルが高い。