「金利差なき世界」となり名目金利差から為替レートを議論することが難しくなっている状況で、最近では「実質金利の低下がドル安をもたらす」という主張をそこかしこで目にするようになった。実質ベースで見たアメリカの金利の低下とドル相場の下落は平仄(ひょうそく)が合うものであり、おそらくは株高とも平仄が合うだろう。

確かに、中長期的かつ理論的には「実質金利の低下」は重要なテーマだと考えられる。名目金利だけですべてが決まるならばブラジルレアルやトルコリラがつねに上昇していなければおかしい。そうしたマクロ経済政策が極端に稚拙な新興国と先進国を同次元で扱うべきかという問題意識は持つべきであろう。一方で、ドル円相場という「名目の世界」の予想を検討するのに、「実質の世界」から説明しようとする場合、丁寧な説明を尽くす必要もある。

購買力平価の議論は不可欠

まず、「実質金利=名目金利−インフレ(もしくはインフレ期待)」だが、先進国の名目金利は少なくとも「金利差なき世界」ではおおむねゼロだ。すなわち、実質金利を比較するということはインフレないしインフレ期待を比較するということに他ならず、結局は中長期的に見た購買力平価(PPP)を議論するということになる。

この点、インフレ率の比較という意味ではつねに「アメリカ>日本」なのだから、円高・ドル安の結論が導出されることになる。だが、「購買力平価で見れば円高・ドル安」という議論はドル円相場ではいつもあり、目新しいものではないし、必ずそうなってきたというものでもない。そもそも日米の実質10年金利差とドル円相場の関係性がそこまで示唆的であったという歴史もない。実質金利低下はドル安要因に違いないが、対円でどの程度正当化できるかは議論の余地がある。