つまり、マー氏は「欧州の古い規制を中国に適用するべきではない」と提言しているが、あからさまな批判はしていない。マー氏の演説が当局を刺激したとすれば、以下の部分が考えられる。

「習近平主席が『成果があげられれば、私の功績でなくてもいい』とおっしゃった。私はこの言葉は未来への責任だと理解している。世界の多くの問題は、イノベーションでしか解決できない。しかし本物のイノベーションは道が敷かれておらず、その過程で間違いも起きる。世界にリスクのないイノベーションはない。リスクをゼロに抑えることこそが最大のリスクだ」

「規制の文書が多すぎる。政策は発展を促進するべきもので、今必要なのは政策の専門家であり、文書の専門家ではない。ECサイトのタオバオ(淘宝)を立ち上げた17年前、われわれはがちがちにルールを定めたため、出店者に理解してもらえなかった。その後、私たちは1つルールを加えるたび、既存のルールを3つ減らすようにした」

「将来の競争はイノベーションの競争であり、監督管理技術だけを競うものではない。習主席がおっしゃるところの政権能力の向上は、監督管理によって秩序ある健全・持続可能な発展を実現することで、監督管理によって発展を犠牲にすることではないと、私は理解している。」

「担保を取って金を貸す考え方は、今後30年のニーズに対応できない。ビッグデータを基礎とした信用システムが担保に取って変わらなければならない」

習主席の名前を出して規制のあり方に口出しした点、そしてアリババが十数年前に現在の問題に対処したと誇っている点は、中国首脳や当局から「一線を超えた」「出過ぎた」と受け取られた可能性がある。

10年以上前から「銀行を変える」と公言

とはいえ、マー氏の奔放な発言は今に始まったことではない。以前はもっと直接的に銀行業を挑発していた。

2008年12月に北京で開かれた企業家フォーラムで、マー氏は銀行が中小企業に融資をしないことを批判し、「銀行が変わらないなら、私たちが銀行を変える。マー頭取が今日話したような『中小企業に融資をする銀行』が3年後には実現している」と熱弁を振るった。

その後もマー氏は公の場で「銀行が変わらないなら、私たちが銀行を変える」と繰り返し、その言葉どおり、ECサイトの決済ツールとして生み出したアリペイを、人工知能(AI)とビッグデータ技術を活用し中小企業や個人に無担保融資を行う中国最大の金融プラットフォームに発展させた。