人々が銀行ではなくアリペイにお金を預けるようになり、中国社会がキャッシュレス化した2010年代後半、マー氏は「銀行は監督機関以外を恐れないが、アリペイに顧客を奪われることは心配している」とスピーチした。

中国当局は長い間、マー氏の言動を容認、あるいは黙認してきた。2008年の「銀行を変える」発言は絵空事であったし、実際にアリペイが銀行機能を持つようになると、国民の歓迎を受けたからだ。

中国当局はアリペイやWeChat Pay(微信支付)に消費データが集まることを危惧し、2016年にデジタル人民元の研究を始めたが、フィンテック分野のイノベーション自体は一貫して支援してきた。

奔放な発言が「傲慢」な印象に

1999年のアリババ創業時から、マー氏の姿勢はぶれていない。彼は経営の素人であり、ITの素人であることを自認し、革命を起こしてきた。2020年10月の金融フォーラムでも冒頭で「金融の素人としてここに立っている」と語った。業界の常識を壊すのは、彼にとっては使命そのものだ。

ただし、マー氏はぶれずとも、その立ち位置は大きく変わった。17人の仲間とアリババを創業し、その後10年ほど、彼の異名は「ほら吹きジャック」だった。しかし今、マー氏は強大な支配力を持つアリババ帝国の首領であり、その発言は時に「予言」と受け止められ、既得権益者の脅威になった。

かつての彼は、金融業を変えようとする挑戦者だったが、アリババとアントの市場支配力が高まった今は、銀行業のルールをすり抜けてデータと利益を支配する独裁者のようにも映る。デジタル人民元を発行しようとする中央銀行にとっては、目の上のたんこぶでもある。

消費者の見方も変わっている。業界首位ではあるが、競合から追い上げられるアリババは、数年前から取引企業に自社のみとの取引を迫る「二者択一」行為を指摘されてきた。

コロナ禍で飲食店が宅配サービスに頼らざるをえなかった2020年7月、浙江省温州市の飲食店20店舗は、アリババ傘下のフードデリバリーアプリ餓了麼(Ele.me)が独占取引契約を強要し、同業他社との取引を禁じたと市場監督管理局に訴えた。