それでも一連の危機対応の財政政策に、アメリカ経済を過熱させるほどのインパクトはないと筆者は見ている。特に、アメリカンレスキュープランで最も重視されている、失業保険の上乗せ給付は、仮に経済正常化が急ピッチに進めば雇用が回復するので、財政支出が自然に抑制される。このため、財政政策の行きすぎに歯止めがかかる設計と言える。

一方で、筆者が懸念しているのは、アメリカンレスキュープランではなく、その後にバイデン政権が進める可能性があるインフラ投資による追加財政政策だ。アメリカでも高速道路などのインフラが貧弱であり、必要なインフラ投資は望ましい。

だがいわゆるプログレッシブ(進歩派)などの政治的な意向を背景に、長期にわたり巨額のインフラ投資が実現する可能性がある。一度長期にわたるインフラ投資が決まれば、仮に経済が正常化しても抑制することが困難になり、これが大幅なインフレを誘引する可能性がある。極端な政治意向が影響して、完全雇用となっても大規模な財政政策が続けば、民間部門の資源分配を損なうという財政政策の弊害もでてくる。

財政政策を重視しかつ政治と深く関わってきたサマーズ氏は、民主党のバイデン政権が抱える危うさを認識していると推測される。だからこそ、新型コロナ危機対応の政策とそれ以外の財政政策を区分けしながら、経済安定化に必要な規模の財政政策を繰り出すべき、との建設的な見解を打ち出したのだと筆者はとらえている。

コロナ後を見据えた財政政策議論乏しい日本

このため、サマーズ氏などの意見が、新型コロナからの正常化を目指すアメリカの財政政策運営を妨げる可能性は低いだろう。アメリカンレスキュープラン以後にバイデン政権が打ち出すとみられるインフラ投資の規模がどの程度まで膨らみ、議会での審議を経てどの程度実現するのか。これが2021年央以降の金融市場の大きなテーマの1つになると予想されるが、そのときに、サマーズ氏の警鐘がより重要になってくるだろう。

サマーズ氏の提言で話題になった論争は、アメリカでの財政政策を巡って経済学者によって健全な議論が行われているという意味で、アメリカ経済の強さを示す1つの材料と言える。一方で、日本では、訪れるかどうかわからない「コロナ後」を見据えた税制改革(事実上の増税)を提言する経済学者が散見されるなど、経済正常化につながる財政政策について建設的な議論が行われているとは思われない。日本に住む筆者からみれば、アメリカが羨ましい限りである。

著者:村上 尚己