三神:老舗の看板を失うかもしれない危機で販路の多面化に舵を切った結果、新しい層に認知されたわけですね。

山本:そうですね。食べてもらうことで初めて「おいしい」と感じていただき笑顔になります。まずは「食べていただくために何をするか」を考える必要があるという、原点に戻ることができました。

三神:老舗の原点とは何かを探る時、途中でいろいろなお考えがよぎったと思いますが、どのようなプロセスでそこに行き着きましたか。

伝統とは、守るものでなくて続けていくこと

山本:伝統とは、守るものではなく続けていくことだと考えました。

「先代から引き継いだものを守り抜いていかなあかん」とこだわっていたところもありますが、200年後に私どもの会社が存続するためには、今ここでお菓子を食べてもらわないという選択肢は絶対にありません。お客さまにお菓子を食べてもらう時間を増やすことが第一で、ここにブランドのイメージを保つためのプライドは一切ありません。「おいしい」こそが、「ブランド」です。

三神:老舗というと、職人技にこだわるイメージがあります。何を残すことが“老舗”でしょうか。

山本:「おいしさ」という原点の下、時代に合わせて変わっていくことを恐れずに、その時代背景の中で、空気感を読んで物事を進めていこうと考えています。たとえば、手で粉をつける作業などは体温でかえって味が落ちますから、そこは新しい技術も柔軟に取り入れるなど。

今まで「こうでないとあかん」という気持ちに囚われていましたが、コロナを新しい時代の幕開けとして捉え、先代から受け継いできたものも守りながら、凝り固まらないでいろんな可能性を見出していきたいです。

(構成:二宮 未央/ライター・コラムニスト)

著者:NHK大阪拠点放送局「ルソンの壺」取材班,二宮 未央