今回CVCが示した株式の買い取り価格は、買収報道前の株価に対してプレミアム(上乗せ幅)を3割程度乗せた、1株当たり約5000円とみられる。東芝の株価は東証1部に復帰後も4000円を超えずに推移していたが、買収報道があった4月7日には前日比18%高の4530円へ急騰した。5000円にはまだ遠く、モノ言う株主がすぐに売却する環境ではなさそうだ。

東証1部への復帰を機に、アメリカの資産運用会社ブラックロックが東芝株の5%超を保有。みずほフィナンシャルグループも5%超まで増やすなど機関投資家が大株主に浮上してきている。

東芝の株価は5000円でも割安という声もあり、市場関係者の間では「将来は6000円が視野に入っている」という見方もある。「東芝はインフラサービスなど長期安定したビジネスにシフトしており、採算も良くなってきている。業績がしっかり積み上がれば、今後も国内外の機関投資家が戻ってくる可能性が高く、株価は上がる余地がある」(市場関係者)という。

キオクシアの企業価値も焦点に

今後は東芝が約4割を保有する半導体大手キオクシアホールディングスの企業価値も焦点になる。

同業大手であるアメリカのマイクロン・テクノロジーやウエスタンデジタルがキオクシアを3兆円規模で買収検討しているという報道もあり、非上場のキオクシアの企業価値をどう見るかでも東芝の企業価値が変わってくる。CVCの買収額が割安とみられれば、今後はより高い価格で買収提案する新たなファンドや企業が現れ、東芝争奪戦に発展する可能性もある。

東芝が上場廃止を受け入れるかも課題だ。債務超過を避けて上場維持するため、百戦錬磨のモノ言う株主をわざわざ引き連れてきたのはほかならぬ東芝自身。さらに東証2部から1部への復帰を「再建の象徴」にも掲げてきた。

東芝関係者の中には「これまで東証1部復帰に尽力してきた。復帰したばかりで再び上場廃止を選択するのか」という疑問の声がある。こうした声は個人株主にもあるほか、約6割を占める外国人投資家の判断も焦点になる。実際に上場廃止を選択する場合は政府や株主、取引先、従業員など幅広いステークフォルダー(利害関係者)への説明が求められ、ハードルは相当高い。

最終的には当局の審査も必要になる。日本政府は2020年、安全保障に関わる日本企業に対して、外資が出資する場合の規制を強化する改正外為法を施行。特に東芝は原子力発電や防衛などの事業を手掛けており、手続きが厳格な重点審査の対象にもなっている。

東芝の取締役会議長である永山治氏(中外製薬名誉会長)は4月9日、「CVCの提案は当社の要請によるものではなく、当社の事業などに関する詳細な検討を経た上で行われているものでもありません。各国競争法や外国為替及び外国貿易法上のクリアランスが得られることや、資金調達が可能となることなど、多くの事項を条件としています。(中略)その検討には相応の時間を要し、複雑性を伴うものと考えられます」とコメントを出した。

さまざまな関係者の思惑がうずまく東芝。まだ病み上がりだが、大きな岐路に立たされている。

著者:冨岡 耕