「台湾有事」が切迫しているというシナリオがまことしやかに論じられ、中には尖閣諸島(中国名:釣魚島)奪取と同時に展開するとの主張すら出ている。「台湾有事論」の大半は中国の台湾「侵攻」を前提に組み立てられているが、その主張が見落としているのは、中国の台湾政策の基本原則と論理だ。それを冷静に分析すれば、台湾有事は切迫していないことがわかる。中国がいま武力行使しない事情を検証する。

根拠がない「6年以内に台湾侵攻」

アメリカのバイデン政権が誕生して間もなく4か月。中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」と位置づけ、日米首脳会談の共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明示し、日本を巻き込んで、台湾問題を米中対立の前面に据える姿勢を鮮明にした。

「民主主義と専制主義の対立」という図式を描くバイデンにとり、「民主」「自由」「人権」などの価値観を共有する台湾を守ることが、トランプ政権以上に重要性を帯びてきたかのようだ。

「台湾有事」切迫論が、噴出するのは今年3月からだった。マクマスター退役中将が3月2日の米上院軍事委員会で「2022年以降が台湾にとって最大の危機を迎える」と発言。続いてアメリカのデービッドソン・インド太平洋軍前司令官が3月9日「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性」に触れ、同23日にはアキリーノ・インド太平洋軍司令官も上院公聴会で「台湾侵攻は大多数が考えるより間近だ」と証言した。大手メディアは、これら発言を大きく扱い、「台湾有事論」が次第に現実味を帯び始める。

特にデービッドソン氏が「侵攻は6年以内に」とのタイムテーブルを明らかにしたのは「説得性」があったのだろう。しかし彼を含め3人の軍人は、いずれも切迫の根拠を具体的に示しているわけではない。