世界中に広まった感染症の恐怖は、「死生観」までも変えてしまうことがあるようです。ファイナンシャルプランナーとしてライフプラン相談を承る筆者のもとにいらした68歳の男性は、「自分のエンディングを考えたい」と言います。

男性は3年前に奥様をがんで亡くし、現在は1人暮らしです。息子さん2人はそれぞれ独立しています。長男に初孫が生まれ、その成長が何よりも楽しみだそうです。ただ、最近、金融機関が発信する「エンディング」という言葉がとても気になり、相続対策として何をすべきか、焦ってきたと言います。

男性は金融機関から「3つの相続対策が有効だ」と言われていました。生命保険の加入、遺言の作成、そして生前贈与です。しかし、そもそも相続対策はなぜ必要なのでしょうか。実際のところ、相続税はどれくらい負担することになるのでしょうか?

相続財産1億円の場合、課税対象は5800万円

相続財産はすべてが課税対象とならず、非課税枠(基礎控除)が設定されています。資産が基礎控除の金額以下であれば、税金を支払うことなく、全額を次の世代に遺すことができます。基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」で計算されます。今回の相談者の男性のように、配偶者を亡くし、法定相続人(息子)2人の場合、基礎控除額は4200万円となります。

仮に、今回の相談者は相続財産が1億円あったとしましょう。相続税は基礎控除額を差し引いた5800万円を法定相続分、すなわち兄弟2分の1ずつ分けたものとして計算されます。従って2900万円に対する税金は385万円となり、1億円の相続財産に対し支払うべき税金は合計770万円となります。

相続税は、相続が発生してから(つまり男性が亡くなってから)10カ月以内に納税しなければなりません。キャッシュが工面できなければ、「物納」として家や土地を差し出さなければならなくなるかもしれず、やはり大変です。

男性は、息子さん2人の相続税が770万円という金額に一瞬驚いた表情をしましたが、ふと考えて「僕にはそもそも1億円なんて大金はありませんね」と言います。現在の住まいのマンションはローンの支払いが済んでいますが、あまり資産価値はなく、財産といえばまじめに貯めてきた現預金と手付かずのまま残っている退職金です。