米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

アメリカの戦略的曖昧性政策

台湾有事が勃発した際、日米両国はそれぞれ、もしくはともにどのような対応をするのか。これは過去50年にわたる東アジアの国際政治において非常に敏感な問いとして扱われ、その答えは曖昧にされてきた。

中国と国交正常化をするなかで日米両国は台湾の主権問題に関する中華人民共和国政府の立場を「認識する」(アメリカ)または「十分理解し、尊重する」(日本)としたが、自国の立場は明確にせず、あくまでも両岸問題が当事者間で平和的に解決されるよう求めてきた。

しかし中国の軍事力が増大し、米中関係、中台関係の融和的時代がともに終焉を迎えている今、日米ともにその従来の曖昧な立場を見直す声が出ている。中国に対して、両岸問題は武力ではなく平和的な方法でしか解決の道はないと思わせ続けるために、日米は台湾有事への対応を粛々と検討し、備え、対中抑止の一貫としてそれを戦略的に発信するべき時に来ている。

台湾有事をめぐる日米の曖昧な立場は、それぞれ異なる歴史的、戦略的背景のもとで形成された。アメリカの政策は一般的に「戦略的曖昧性(Strategic Ambiguity)」と呼ばれる。これは両岸問題の平和的な解決を実現するために、アメリカがいつ、どのように、台湾の防衛に介入するかを曖昧にすることで、北京、台湾の両政府による挑発的・冒険的な行為を抑制するという政策だ。