オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。

退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。

今回は、「日本は今こそ最低賃金を上げるべき」その理由を一から解説してもらう。記事の最後では、「中小企業の労働分配率は80%にのぼっているので、最低賃金は上げられない」という主張に潜む「欺瞞」をご紹介する。

日本に必要な「3つの経済政策」

日本経済を回復させて財政を健全化させるには、(1)賃金の引き上げ、(2)企業の設備投資の増加、(3)生産的政府支出(PGS)という3つの経済政策の実施が求められます。

経済を構成する最大の項目は個人消費です。単純化すると、個人消費=人間の数×所得なので、人口が減少する日本では、何もしなければ個人消費総額は確実に減ります。所得の増加は、日本にとって死活問題です。

所得を増やすには、短期的には労働分配率を上げればすみますが、中長期的には、企業の設備投資が必要です。設備投資が増えれば生産性が上がり、労働分配率を維持しても、賃金は持続的に上がります。

1990年以降の日本のGDPの動向を見れば、デフレや消費税の引き上げがあったにもかかわらず、個人消費は堅調に伸びたことがわかります。経済の足を引っ張っているのは、設備投資です。

企業の設備投資意欲を高めるには、政府のリーダーシップが不可欠です。国家戦略です。日本は1990年あたりから、企業の設備投資意欲を高める国家戦略が欠けていましたが、今現在は、グリーン戦略とICT戦略が掲げられています。

これらの戦略を成功に導くのに重要なのは、政府がGDP比で見ても大規模な金額を投資することです。

日本のGDPは約550兆円ですが、日本の生産的政府支出(PGS:日本人の知らない経済政策「PGSを増やせ!」参照)は現在GDP比で10%以下となってしまいました。先進国の平均は24%ですし、途上国ですら平均20%なので、日本のPGSはまったく不十分です。日本のPGSをGDPの20%に上げるためには、年間約50兆円の追加予算が必要になります。1兆円や2兆円では焼け石に水です。